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「また、授業中に寝てたでしょ」
いつものように、放課後のガランとした少し冷えた教室で、私はトモキに話しかけた。
「まあね、眠いんだから仕方ないじゃん。ミヤビベさんは、いつも早寝早起きですごいよね。一番早く学校に来てるって噂だよ」
「まあね」
思わず同じ口調で答えた私に、トモキは顔を下げて笑いをこらえているようだった。
「夜は何時頃に寝てるの?早寝って言っても、まさか12時前じゃないでしょ?」
「10時頃に、布団に入ってます…」
そうする必要もないのに、なぜか申し訳なさそうに、さっきのトモキと同じくうつむいて言う私に、わざと顔を上げ大袈裟に驚く仕草を彼は見せる。
「それは早い!おばあちゃんみたい」
「でも、夜ってやる事ないし。居間にいると家族がうるさいから、すぐ自分の部屋に行くんだけど、トモキの家と違って、ウチはテレビもパソコンも自分のがないから、部屋でやる事ないんだよね」
「そっか。オレは映画を観るか、パソコンをいじってるから、それがなかったら寝るしかないかも」
「でしょ?」
「でも、10時は早過ぎるよ。本を読んだり、ラジオを聴いたりとか。あと、勉強は…しないか」
「勉強は朝してるから」
「あ!勉強してるんだ。ミヤビベさん、頭いいからなぁ」
そう言うトモキだが、成績は彼の方が全然、上だった。
「そんな事ないよ。トモキこそいつ勉強してるの?学校ではずっと寝てるし、家では夜遅くまで映画を観てるっていつも言ってるのに」
これは、常日頃から本当に疑問に思っている事だった。早起きし予習復習してる、授業もキチンと受けている私よりも、トモキの方が成績がいいのだ。
「いつしてるんだろ。自分でもわかんないや」
「何それ」
一見するとなげやりに見えた彼に、私は少し呆れながら言ったのだけど、トモキの方は至って真面目らしく、そうわかると何だか可笑しかった。
(呑気そうに見えるけど、本当に勉強してないんだったら、この人って、めちゃくちゃ頭いいのかな?それなら、こっちは、物凄く羨ましいんですけど)
そんな風に思っている私をよそに、彼は知ってか知らずか、相変わらず何食わぬ顔をして、今夜、観るらしい映画のチェックに余念がなかった。
(変わった人だ)
「ミヤビベさん、今度、オススメの映画を貸してあげるよ」
トモキは私がいつも同じ言葉を言うのをわかっているはずなのに、また繰り返し今日も言っている。
「結構です」
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