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私は映画が苦手だった。まず、映画館が苦手。暗くなると、すぐに眠くなった。自宅で鑑賞するにも、テレビのある居間は家族がうるさいので、映画を観る環境になかった。
「イヤ、でもさ、今度、レンタルになる映画は凄く面白いんだって!まず、最初に精神科医が殺されて、それから…」
そう言うと、無意識に睨みつけていた私の表情に、素早く気づいた彼は、すごすごと口を閉じた。
トモキの好きな映画は、ホラー映画が多かった。私が最も苦手とするジャンルだ。
「怖いのは嫌だって言ってるじゃん」
「イヤイヤ、でも、これは違うんだよ。怖いとかじゃなくて、イヤ、ちょっと怖いところもあるかな?でも、ホラーとかそう言うんじゃなくて、お化けとかも出てくるんだけど、ラストが凄いから。怖くないし、どんでん返し系で、感動しちゃうヤツ、ミヤビベさんも観たら…、あ!」
いつまで続くかと思うほど、ペラペラとまくし立てていた彼が、突然、口ごもって黙ってしまった。
「どうしたの?」
「イヤ、えっと…」
「何よ」
「イヤイヤイヤ、この映画の事は一旦忘れて下さい」
「何で?凄く面白いんじゃなかったの?」
「…」
「どうしたのよ。何か気になるなぁ」
「えっと…、ミヤビベさん、映画が嫌いみたいだし、観ないと思うから大丈夫だろうけど…」
あんなに薦めていたのに、と、怪訝そうに見ている私の視線に気づいた彼は、何故かこう言って謝った。
「ゴメン、オレ、ネタバレしちゃった…」
そうして、心底、申し訳そうに、うなだれるトモキだった。
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