いつかの放課後と、夢だけ見てる今日(仮)

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「トモキは将来はやっぱり映画とか、そっち関係の道に進むつもりなの?」  トモキに聞いてみたいと思っていた事があったはずなのだが、何だったか忘れたので、ふと、そんな事を言ってみた。まあ、映画好きだし、何となくそうなのかな?と以前から思っていたので、他意なく口を出た言葉だった。  トモキとの会話はいつもこんな感じで、二人とも思いつくままに、どうでもいい事を、ポンポンと言葉のキャッチボールしているように、放課後の時間をもて余していた。  でも、その時のトモキは少し驚いたような戸惑った表情をして、何故か黙ってしまった。そして、私の知らない何かを思い出しては考え込んでいるような、あまり普段は見せないような顔をしていた。 「何、黙ってるのさー?」 「んー」 「私、何か変な事を聞いたかなぁ?」 「別にー」  トモキは頬杖をつきながら、教室の窓をじっと見ていた。窓の外では野球部が大声で掛け声をかけながら走り込んでいるのが見えた。トモキはそれを見ているのではないと、私にはわかっていた。  でも、窓をじっと見つめる、その目の先に何があるのか、彼が何を考えているのか、私は今、自分が何と彼に声をかけたらいいのかが、突然わからなくなってしまった。いつもと何かが違う雰囲気がそこに漂っていた。私はただその気持ちを悟られないようにそっと自分の中に隠して、トモキの目線の先を一緒に追うふりをして、上の空の彼の顔を見た。  怒っている風でもない。私の言葉がいつもとは違う、彼の本心を垣間見せ、とても無防備な少年の顔をした人がそこにいた。少しだけうれしいような、くすぐったいような気持ちで、いつに間にか私も無防備に彼を見つめていた。  さっきまでとはうって変わって、誰もいない教室で、どことなく心地いい沈黙が、二人だけを包んでいた。この宇宙上に、今、私とトモキだけが存在している。そんな事はないとわかっていた。だけど、その不思議な感覚に、私はただ身を任せて、この時が永遠に続く気がしていた。そんな訳はないのに。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加