転がる真珠の行き先は

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 私は記事を斜め読みしてから、ノートとは別に入っていた細長い箱を取り出した。カーペットみたいに、指でなぞると色が変わる青い布に覆われた箱だ。よくお母さんがよそ行きのネックレスとか入れてるやつ。この中に何かネックレスでも入っているのだろうか。ぐぐっと力を入れて開けた。こういう、アクセサリーの入っている箱は、力を入れないと開け閉めできない。そのくせ、一旦開くと取り返しの付かない勢いでパカッと開いてしまうんだから。  箱は音を立てて開いた。中には何も……いや、何もではない。値札と、小さく丸められた紙が入っている。値札にはびっくりするような金額が書いてあった。うっわ、高い。一体どんな綺麗なネックレスが入っていたんだろう。  そこで、私は自分が持っていた真珠の粒に思い至った。もしかして、これが入ってたのかな? 子供の目から見ても、これがものすごく綺麗だというのはわかる。多分そうだろう、とあたりをつけてから、丸められた紙をつまみ上げた。開くと、そこにはきざったらしい筆記体で「For M」とだけ書かれていた。 「“M”?」  大ばあちゃんの名前は千代子(ちよこ)だ。Mじゃない。Mって誰? 「……真奈美?」  突然冷たい風が吹き込んできた。びっくりしてそちらを見た私が見たのは、閉まる扉。電気も消されて真っ暗になる。慌てて外に出ようとしたけど……開かない! 閉じ込められてしまった。 「ちょっと! お母さん!」  母が閉めたのだと思った私は、扉を拳で何度も叩いた。恐怖と不安と苛立ちで、その音と声はどんどん大きくなっていく。しかし、そんなに離れていないであろう母は、この大声と音にも気付かないのか、戻って来る様子はない。わざとか? ここで私がサボってるとでも思ったの?  頭に来た私は、スマホから母に電話した。 『もしもし?』  不審そうな母の声を聞いて、私の怒りは最高潮に達した。なんなのこいつ。我が親ながら無神経が過ぎる。 「物置開けて!」 『物置?』 「今閉めたでしょ!? 開かないんだけど!」 『物置ってどこよぉ。ねえー、篤子さーん。なんか、麗奈が物置がなんとかって言ってて……』  物置がなんとか、じゃないよ。怒りのあまり涙がこぼれて来た。今にも癇癪(かんしゃく)を起こしそう。でも、伯母さんの前で喚くわけにもいかないので、そこはぐっと堪えて待っていた。
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