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しばらくすると、廊下をこちらに駆けてくる足音がする。扉はすぐに開いた。伯母さんがびっくりした顔で私を見ている。
「麗奈ちゃん大丈夫? あら、まあ。怖かったのね。可哀想に」
「開いてたじゃない。それっくらいで泣くんじゃないわよ」
伯母さんがあまりにも私を心配するので、申し訳なくなったんだとは思うけど、母のあんまりな言い草に、一旦収まり掛かった私の怒りは再び燃え上がった。母を睨み、
「何言ってんの!? 閉めたのお母さんでしょ! ほんっと、いつも私に確認しないんだから!」
「違うってば!」
「まあまあ、落ち着いてよ。それより、麗奈ちゃん、どうして倉庫にいたの?」
「そうよ。あんたがこんなところ入り込むから……」
「真珠が落ちてたの!」
私は母に向かって大声を出した。ポケットから拾った真珠を取り出す。掌に乗せて伯母に見せた。彼女は目をぱちぱちと瞬かせて、
「あらー? 懐かしいわね。これ、おばあちゃんの真珠のネックレスじゃない。清貧なおばあちゃんがこれだけはやたらと良いもの持ってたのよねぇ」
「あらー、れーちゃんが壊したの?」
「私じゃないよ!」
咎めるような母に思わず怒鳴ってしまう。
「あらー、古いから糸も劣化してたのかしらねぇ」
何でこの歳の女の人は皆「あらー」って言うんだろう。私もこれくらいの年齢になったら「あらー、めんどくさいわねぇ」とか言うのかな。
「いつ見ても良い真珠だわねぇ」
母もしげしげと真珠を見た。本当に価値がわかっているのだろうか。まだ機嫌の直っていない私は疑いの目で見てしまう。
「罪滅ぼしだものねぇ」
伯母さんはそんなことを言いながら重たい溜息を吐いた。
「えっ、やだぁ、罪滅ぼしってなーに?」
私が訊こうとしたことを先回りするように母が言う。伯母さんは「もう時効よね」と言いながら、
「あのねぇ、おじいちゃん、昔女性関係で一悶着あったらしいのよねぇ。それでお詫びにあげたのかなって思ってた」
「そうなの?」
「そうそう。おじいちゃん亡くなってからぱたっと連絡途絶えたけど」
それを聞いて、私は黙り込んでしまった。少し考えてから、質問する。
「大じいちゃんって、いつ亡くなったの?」
伯母さんの返事は、五十年くらい前。正確には、あの新聞の切り抜きの日付、その少し前だった。
『女性行方不明』
S県I市……隣の市であることに、その時私は気付いた。
あの記事と、ネックレスの箱に真珠が続いていたって、どう言うことだろう。紙に書かれてた「For M」……高い金額の値札……行方不明の「真奈美」さん。
いや、考えるのはやめよう。どうせここは引き払うんだから。
私は、母がいない時を見計らって伯母に事情を説明して真珠を預けた。あとはもう伯母さんに任せよう。
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