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距離
「雪村さん。また先方からクレームが入ってるわ」
「チーフ。何度もすみません」
あっちの席でもこっちの席でも、電話がひっきりなしになっている。アパレル雑貨の通信販売が主力の会社。基本、電話でのやりとりが仕事だ。私ーー雪村冬美は、入社してから半年以上経つ。だけど、なかなか仕事を柔軟にこなせない。
「あれほどミスには気をつけるように言ったでしょ! すぐに謝罪の電話を入れて」
「はい、すみません!」
チーフはアラフィフだけど、まだ三十代といっても通用するアパレル会社代表でお洒落な女性。だけど、かなり厳しい。そのチーフから訂正資料を受け取って、私は自分の席に戻った。デスクの上には、パソコンとヘッドセット。訂正資料に目を通しながら、耳にヘッドセットを着けた。
コール音が鳴っている間に、先方へ伝える変更の内容を考えていた。そんな私の耳に、
「ねぇ、ほら」
「また、雪村さん。ミスしたのね」
「ほんとう。毎日怒られてるんじゃない?」
前の席から同僚三人のひそひそ話が聞こえてきた。対面する形でデスクは配置されている。ヘッドセットをしたから、私には聞こえないと思って話しているんだろう。
他人の不幸は蜜の味。確かそんなタイトルの小説かドラマがあった。今の私は、他人から見ればきっとそんな風に映るだろう。
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