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強引に引き寄せられて体を反転させられる。一瞬慎吾に押しつぶされるような圧迫感に小さく声を漏らすと、私を見下ろす慎吾は過去にも見たことのない色気を纏った顔で私を見下ろす。その射貫くような視線に体が熱くなる。初めて見る慎吾の顔を、私と離れた10年の間に何人の女が見たのだろう。
慎吾の背後に広がるオレンジの空に、目を細めた慎吾の表情と透けた茶色の髪の毛がよく映える。
小さい頃からそばに居た友達以上家族未満の男と最初で最後の情事。
空が濃紺に染まるまでの時間だけは司さんを忘れることができた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
孫の顔を見せに来いとうるさい母親が煩わしくてテレビ電話をかける。
小さい画面じゃよく見えないと怒る声に通話を終えたくなってしまう。
ベビーベッドで眠る娘はもうお座りができるようになり、よく笑ってよく泣いた。
産まれてしまえばそれなりに可愛くて、当初は戸惑ったけれど娘のために精一杯生活を支えようとは思えるようになっている自分に驚く。
嫁とは大きな喧嘩をすることもなく生活できている。けれど俺の心には常に美紀がいる。
この想いは墓まで持っていくつもりだ。
そうして突然の母の知らせに俺の体は固まった。
『美紀ちゃん、来月出産なんだって』
「え……そうか……おめでたいね……」
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