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妊娠の可能性は低いと言っていたではないか。先輩に問題があるかもしれないと……。
最後に見た美紀の顔が脳裏に浮かぶ。オレンジに照らされて、どこか悲しそうに笑ったあの顔が。
そうして俺は青ざめた。
あれから何か月たった?
たった一回ヤッただけで嫁は妊娠した。もしかして美紀も同じなのではないか。
あの日あの丘でした行為が美紀の人生を大きく変えはしなかったか。
母親が電話の向こうで呼ぶ声も聞こえない。
いやまさか、あくまで可能性の話だ。美紀は夫婦の営みがあると言っていた。
先輩が不貞をはたらいた数だけ美紀を抱くように、美紀も俺と会った後で先輩としたのかもしれない。
お互いの不倫を誤魔化すために。
だから回数でいえば先輩との子である可能性の方が高いはずだ。
「ふう……」
今更どうにもならない。どっちの子であっても、美紀が望んだとおり子供を授かったのだ。
これであいつは安心できるだろうか。先輩と表面上夫婦を保っていけるのだろうか。
母親の怒鳴り声に我に返る。
「ああ、ごめん……」
『あんたの子と美紀ちゃんの子、同級生だね』
ああそうだ、来月出産なら娘と同級生だ。
『美紀ちゃんの子は男の子だって』
思わず娘の顔を見つめる。
この子が将来俺のような男とデキてしまったら発狂するだろうな。
美紀の子も、もし俺のような男に育ってしまったら申し訳ない。
どうか俺の子でありませんようにと願う。こんなクズの遺伝子をこれ以上増やしてはいけないな、なんて思うのだ。
END
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