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シンは人知れずこくりと喉を鳴らしながらも、あえて視線を窓へ向けた。
本当に欲しいのなら、襲ってしまえばいいのに。そう胸中で嘲る。
車窓から見える景色は、雑多な街から品の良い物へと変わっていた。この辺だろうかなどと考えながら、緑の増えた爽やかな風景を眺める。
白亜の壁に包まれた家、白い日差し、新緑の木々。閉ざされた硝子の窓からも、澄んだ空気が感じられるような気がする。
「おれの主は、どんな人なの」
何気なく問う。これからこの身体の主となる人物の話を、彼は指の先ほども知らなかった。仕事として相手をするのだから容姿や年頃にこだわりはないが、これから世話になる相手として情報を得ておくのは悪くない。
「美しい方ですよ。品が良く、お優しい。まあ少々気の弱いところのある方ですが」
困ったような声色で、フォーサイトは言う。その様子からして、嫌うに嫌えないというやつだろう。
ふうん、と唸ったシンの胸に、背後から手が回された。
「んっ、な、にして……っ」
思わず漏れた声を隠すように強く振り払うが、元来細すぎるほど細身のシンでは到底敵わず、フォーサイトの腕の中にすっぽりと抱きくるめられてしまった。
「やめ、」
「シン。よくお聞きなさい」
低く甘い声が首筋を這う。生暖かい感覚にぞわりと肌を粟立て、シンは思わず動きを止めた。フォーサイトは満足げに笑う。
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