3.幸福な幼馴染み

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 エリオスの部屋は、至って簡素で清潔だった。白い壁と木の柱、低い天井。ベッドも丁寧に整えられており、枕元には何やら革表紙の古そうな本が積まれていた。  家具らしい家具はベッドとライトスタンド、木製のたんすしかない。その様子だけ見ると娼館と大差ないように思えたが、彼の部屋はむしろ、 (修道院の部屋ってこんな感じかな)  とすらシンに思わせるような質素ぶりだった。あまり調度品や着飾ることに興味がないのかもしれない。  喪服のような黒のシャツとスラックス、黒いエプロンを身に纏い髪をあっさりとまとめた姿を思い出し、その想像は確信に変わった。  シンは部屋を見回し終えると、とさりとベッドの端に腰掛け、足をぶらつかせる。静かで穏やかだが、少し退屈だった。 (こきつかわれた方がましだったかな)  労働の経験のないシンには正確なことはわからなかったが、少なくともじっと人形のように大人しくしているよりは、愚痴やら自慢やらしゃべくりながら身体を動かせる洗濯女たちの方が楽しそうだと思った。  窮屈な服を着て凝った身体を伸びで誤魔化し、そのまま無遠慮にベッドに仰向けに倒れ込む。 「つかれた」  ぽそりと呟く。  とろとろと目蓋が降り始め、やがて。 「……すぅ」  緩やかな眠りの国へと、手を引かれていった。  
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