3.幸福な幼馴染み

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 こと。  小さな音に、シンは目を薄く開いた。部屋が仄暗い。  ゆらりと、橙色の光が揺れた。  ランタンを持った何者かが、戸口に立っている。 (誰だ……?)  微睡みに足をとられ、覚醒しきれない頭でぼんやりとその姿を捉えていると、ランタンの焔に照らされた小さな顔がこちらを見た。 「っ!? レ──」  飛び起きる。部屋は濃い群青に塗り込められていた。夜だ。ランタンの灯りも、ない。 「ゆめ……?」  覚醒直前に描いた白昼夢だったのだろうか。そう思うがすっきりとせず、シンは額に手をやる。 「夢、か……」  そうだ。見知らぬ男のふりをしてみせたあのレイが、そんな突然態度を覆すはずがない。夢でなかったとしても、大方、部屋の主であるエリオスが様子を見に来たとか、そういうことだろう。  自身を納得させ頷くと、くぅ、と腹が空腹を訴えた。  薄い腹に手を添えてさすり、ベッドを降りる。と、ベッドサイドのテーブルに月光に照らされ見覚えのないものが乗っていることに気がつき、シンは目を丸くした。 「エリオスか……?」  ひとり分の食事が、トレイに乗せられて鎮座していた。  食べていいということなのだろうか。深く考えることなく、空腹に耐えかねたシンは銀食器へと手を伸ばした。
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