お酒

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お酒

よくこんな話を聞くのです。 "お酒は人をダメにする" バーでお酒を飲んできた時、そんな話に盛り上がり、それについて隣に座ったおじいさんがこう話しておりました。 「お酒が人をダメにするのではありません。お酒は人を暴くものなんです」 あの頃の自分にとっては、その意味がよく分からなかったんです。けれど歳を重ねるごとに、お酒と向き合う多くの人たちを見ていると、確かにお酒はその人の本性を見るひとつの手段として考えられる気がしてくるようになったんです。 お酒を飲んで優しくなるもの、朗らかに話し始めるもの、逆にシュンとしたように静かに飲む者。 中にはいつも明るく笑顔が素敵な人が、とっても感情的になって、怒ったように変貌する人もいらっしゃいます。 心の中ではとっても哀しい思いをしていても、いや、だからこそ必死に周囲には優しくするあの人は、実は日々自身への傷つく感情と戦いながら生きていたりして…… バーのカウンターの先、酒が並ぶ一面の壁が鏡になっているところがありますが、それはなぜだかご存知ですか? 実はバーは、いわばお酒で顕になった自分の本性とカウンターを挟んで向き合う場所とされております。バーテンダーはそれを補助する牧師さんのような存在という話も耳にします。本性を写し出すもの、それが先程の話の壁一面の鏡なんです。 誰かと話していても、カウンターの先には本当の自分自身がいるのかもしれません。だからこそ、今の自分をちょっぴり大人にできる場所。それがバーであり、お酒の持つ文化なのです。 こうしてみると、お酒は人生の薬であると言えますね。しかし、気をつけてください。 薬にはどんなものにも副作用というものがございます。正しい嗜み方を越えて使おうとすれば、体を飲み込み、毒になることでしょう。
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