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ほろ苦い
リビングで待つ起きたばかりの君は、いつものように僕のコーヒーを待っている。
僕は昨日買ったばかりのエチオピア産のコーヒー豆を自慢のコーヒーミルで挽いていく。
随分と年季の入ったこのコーヒーミルは、おじいちゃんのお下がりで、キッコキッコと鳴らしながら取っ手を回す。
最近のブームはエスプレッソ。
でもエスプレッソマシンじゃない。
エスプレッソマシンは簡単に、そして早く1杯ができてしまう。
コーヒーは香りを楽しみながら、ゆっくりと楽しむもんだとおじいちゃんが言っていた。
だから、僕のエスプレッソはガスコンロにモカエキスプレスという直火式の器具を使い、火加減に注意しながらグツグツと丁寧に抽出していく。
ゴポゴポゴポと音を鳴らしてくると、苦味の強いコーヒーの香り。
そうして出来上がった熱々のコーヒーをカップに注ぐ。
君は結構な甘党だから……
角砂糖は2つ。小さなミルクピッチャーも忘れずにね。
それらをお盆に載せて、リビングへ向かい、ダイニングテーブルにカップを置く。
コトッという受け皿が机に置かれる音。
カチャッというカップが受け皿の上で踊る音。
全てが心地よい瞬間。
けれど……
君はもうどこにもいない。
角砂糖を2つ。
ミルクもいれて……
なのに、こんなにもコーヒーの苦さが心に染みる。
ちっとも甘くなんてありゃしない。
本当に大切なことは、コーヒーへのこだわりよりも……
君の隣でコーヒーを一緒に飲むこと。
それが美味しいってことだったんだね。
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