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~夏の五~
あまりに早くついてしまった。もう一時間もここで待っている。
兄の服を借りてきたけれど、やっぱりこれ、少し大きくないか?
ついでと言われ首にかけられたこのペンダントも、チャラいと思われたりしないだろうか。いつもは気にならないことばかり、今になって気になって仕方ない。
駅の時計ははもう何度見ただろう。あと10分……まだあと10分か。さっきからあの時計、ちゃんと動いているのかと不安になる。
なんでこんなに落ち着かないんだろう。あいつはどうだろう。同じように慌ててるのかな。それとも逆に落ち着いているのだろうか。そもそもちゃんと来てくれるだろうか。いや、疑ってるわけじゃなくて、体調とか事故とか……違うか。昨日の言葉が引っかかっている。
そりゃそうだ、いきなり巻き込んで知らない人の前で弟を演じろっていうんだから、不安にもなるだろう。怖い。怖いんだ。あいつが本当にいやになって急に来ないっていう連絡が来て、そのまま疎遠になってしまうことが、今までの楽しいのが全部なくなって嫌われてしまうことが。たまらなく怖い。
「……兄失格かな」
ハハっと乾いた笑いがでる。
「……何ネガティブになってんの、兄ちゃん」
ふいに後ろから声をかけられた。
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