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光沢のある紫のカバーに覆われたベッドは、スプリングが効きすぎている。
少し動くだけでふわんふわんと揺れて落ち着かない。それに、安物のバスローブはごわごわとして固く、まったく僕をくつろがせてはくれない――。
ふたりで選んだのはホテル街の適当な一軒だった。慣れていない僕たちは、ぎこちなく地味めな部屋を選び、ムードも何もなく部屋へ入るとまずは順番にシャワーを浴びることにした。
先に風呂場に入り、シャワーを浴びた僕は早速うろたえた。
(どうすればいいんだろう)
男のあそこは急には使えない。拡張しなければ自分が怪我をする。
ここでまずは準備をするべきだろうか? それとも前戯の一部として相手にゆだねるべきなんだろうか?
(わからない……)
じっくり悩みたかったがそんな時間はない。今度ネットで調べてみよう、次があるなら……。正解はまったくわからないが、僕は自分で痛くない程度にはゆるめておこうと床に座り込んだ。
シャワーノズルをおそるおそる突っ込み洗浄を終わらせると、指を突き入れぐりぐり回して広げていく。抱かれたい願望のある僕は、必然自慰でも尻を使う年季の入ったアナニストでもあるので、はじめてしまえば順調にできた。
痛くないように広げることに集中しながらも、気持ちいい場所に指がかすめれば自然と興奮してくる。これからここに、本物を入れてもらえるとなればひとしおだ。
「……っん、……はっ」
顎を上げ熱い息を湯気に溶かしこんでいると、いつの間にか夢中になっていたようで、大きく開いた足が浴室の備品を蹴っ飛ばした。カランカランと音を響かせてシャンプーやら何やらが床を滑っていく。まずいと思ったそのとき、セキヤさんが呼ぶ声がドアの外から聞こえた。
「あの、アンザイさん……大丈夫ですか? ずいぶん長いから心配で……」
はっと、気づいて振り返る。幸い背を向けているが、入口はガラス張りで中が丸見えだ。
「いえっ! あの、大丈夫ですから。ちょ、ちょっと、準備してます!」
慌てて投げ出していた足を閉じ体を縮こませて大声で返事をする。
「あぁ! ごめんなさいっ」
セキヤさんも焦った声であやまると、気配が遠ざかっていった。
(はぁー、びっくりした……。見られたかな?)
時間をかけ過ぎたみたいだ。いい感じに高まっていた気持ちも驚いて少し冷めてしまった。でも僕のこと心配してくれたんだ。優しいな――ほんわりと胸を熱くしながら、バスローブを着て戻る。
「あの……お待たせしました」
急に恥ずかしくなって小声で言えば、セキヤさんもぼそりと「いえ……」と応える。こころなし顔が赤くなっているように見えた。
ろくに僕の方を見ず逃げるようにシャワーに行ってしまったセキヤさんを見送って、いよいよ緊張してきた。
思わぬなりゆきだったけど、ついに僕の願いがかなうんだ。
ベットの横で深く深呼吸してからベッドカバーをまくると、僕は中に潜り込んだ。
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