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あおむけに寝ころんでぎょっとする。
天井には大きな鏡がはめ込んであった。目をまんまるに見開いてこちらを見る僕の姿がしっかり映っている。慌てて寝返りをうった。
こんな時に自分の姿なんか見たくない。これから抱かれるのを待ちわびる男の姿なんて、みっともないだけだ。カバーを引き寄せて頭まで覆った。
しばらくするとベッドの足元がゆらゆらと揺れた。上体を起こして見れば、僕と同じバスローブを身に着けたセキヤさんが座ろうとしているところだった。
目が合うと、照れたように笑う。
「そっち、行っていいですか?」
改めて聞かれると僕も照れてしまう。何とこたえていいかわからずただうなずくと、セキヤさんはするりと僕の横にすべりこんできた。
横になったまま、おずおずと見つめ合う。
シャワーを浴びた後も眼鏡を外さないのが気になった。よっぽど目が悪いのかな? そう思いながら伸ばした手を、セキヤさんに握られる。
はっとして手を引き戻そうとするが、逆に引き寄せられて、僕たちはそっと抱き合った。
セキヤさんの心臓の音が聞こえる。
初めての人なのに、どこかしっくりと落ち着くのはなぜなのだろうか。緊張しているのに心地よくて力が抜けていく。不思議な感覚だ。
セキヤさんが手を伸ばして、僕の頬を撫でてくれた。そのまま体を寄せて、軽く唇を触れ合わせる。セキヤさんの唇はすべらかで触れるだけで気持ちが良い。
微かに香る柑橘系のコロンと歯磨き粉の香り。ちゃんと香りにまで気を使ってるなんてすごいな、僕はそこまで気が回らなかったけど、大丈夫だろうか。
セキヤさんの手はキスをしながら器用に僕の耳の辺りを優しく彷徨う。少し、慣れて感じもするよな……。僕みたいに全くの初心者ってわけじゃないのかもしれない。
――だけど、こんなものだろうか……。
はじめてのキスだというのに、さっきから僕は余計なことばかり考えていた。
――キスってもっとドキドキするものじゃないのかな?
うまく集中できなくて、気が散ってしまう。もっと何かを感じるかと思ったが、思い描いていたほど感情が動かず拍子抜けした。
セキヤさんはどこか上の空の僕に気がついたのか苦笑いのような表情を浮かべると、今度は僕の首を掴んで引き寄せ、いきなり角度をつけた深いキスをしかけてきた。
「……ぅ……んぐっ……」
思わず両手を彼の腕について距離をとろうとしてしまう。だが彼はひるまず少し開いた口に舌を差し込んで、優しく僕の舌をつついて絡ませてきた。まるでなだめられているような柔らかいその動きに、次第に慣れてきた僕もあわせて動いてみる。
徐々に唾液が溢れてきて、ぴちゃ、くちゃ、と微かな水音が聞こえてきた。
いやらしい音とぬめるような感触が相まって、僕はお尻の辺りがむずむずし始めるのを感じる。
ひっこんでしまったセキヤさんの舌に誘われて、今度は彼の中に僕の舌を入れてみた。
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