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「あ、僕ですか? あの……そうですね……はい。はじめて、なんです」
もじもじと答えると、男はぐっと体を近づけてきて、耳元で言った。
「どう? 僕と」
言いながらふっと息をかけられて背中に震えが走る。
「あっ」
初心者の僕はそんな刺激でも思わず声を出してしまって、恥ずかしさに身を縮めた。男はおかしそうに笑いながら耳元でさらに「かわいい」と吐息まじりに言う。
いつの間にかぴたりと密着され、高そうな辛味のある香水の香りが僕を包んだ。
――これ、誘われてるんだよな……。
こんなにあからさまに言い寄られるのはもちろんはじめてだ。体の中心から熱いなにかが広がっていくのを感じて動揺した。緊張で胸がドキドキとうるさく鳴っている。
「そんな……」
暗くて見えなくてよかった。僕は顔を真っ赤に染めてうつむくことしかできなかった。
そうしている間にも男は僕の首元に顔をよせ、手をさりげなく僕のあそこに置くと、柔らかく撫ではじめる。
「え!? あの……ちょっ……」
驚く僕をにやりと見ると、男は性急に僕の前をくつろげてズボンの中に手を突っ込む。そして半立ち状態のそれを取り出そうとした。
「ちょ、ちょ、ちょっと! ……それは」
僕は反射的に男を突っぱね、体をひねって股間を隠していた。まさかこんな所で性器をさらすなんてできっこない。
慌ててチャックを上げる僕を見て男は肩をすくめ、「ふぅ」とため息を吐いた。
「……す、すいません」
やられたのはこちらなのについ反射的に謝ってしまったのは、拒む方が間違っていると思ったからだ。ここではきっとそういうノリのほうが正しい。
だけど、それ以上進めるなんて僕には到底できそうもなかった。
ちゃんと想像はしていたが実際にされるとなると大違いで体が拒絶反応を示す。気分を害したように脚を組んで椅子に体をあずけている男を横目で見て、みじめな気持ちになった。
(やっぱり僕なんて、いざとなった怖気づく人間なんだ……帰ろうか……)
高揚していた気分もすっかり冷め、すごすごと席を立とうとしたとき、男のその向こうから声がした。
「あーあ、つまんないネンネちゃんに声掛けちゃったんだ」
うつむいていた顔を隣に向ける。するとさっき僕を口説いてきた男に、いつのまにか反対側に座った若い男がしなだれかかっていた。彼はちらりと僕を見て言う。
「こんな立派な”もの”持ってるのにかわいそうだね。僕ならいい思いできると思うけど?」
多少ひそめてはいても、周りは気にせずそう言い放った男は、隣の男の股間をまさぐっている。手慣れた様子で、傍から見ても色気のあるきれいな男だった。
「随分な自信だね」笑いながら応えた隣の男は彼を引き寄せると、ためらうこともなく濃厚な行為をはじめた。
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