戦場の酷い掃除屋

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 僅かな敗残兵たちは雨が降りしきる中、徒でさえ歩く力がほとんど残っていないのにぬかるみに足を取られるので倒れては進み倒れては進み、或いは這いながら進みます。そんな中で変な物を口にして下痢になる者もあれば、傷口が多湿のため直ぐ化膿して湧いたウジを払い落とす者もあり、赤痢にかかる者もあれば、マラリアにかかる者もあり、餓死する者もあれば、病死する者もあるという具合に極めて悲惨な地獄のような状況に陥りました。  斯様な極限状態になると、人間は道徳を忘れてしまうものなのか、自分だけ栄養を付けて助かろうと死体の人肉を切り取って食べる者がちらほら現れました。倒れている者に近寄って、「こいつは死んでから間もない。温かいぞ、美味そうだ」なぞと言って食べるのです。  中には物凄いのがいて味を占めて肉だけでなく臓器や脳みそや目玉も抉り出して食べ、兎に角、ところ嫌わず食いついて温かい死体を食べ尽くし、骨だけにすると、冷たい死体にも手を出して食べ尽くし、遂にはまだ生きている者も銃剣で刺し殺して食べて行きました。毒蛇やサソリを食べても免疫によって毒に侵されないミーアキャットのように病原菌まるけの死体を食べても大丈夫なのです。いやはや顔も手も軍服も血塗れで、その姿はケダモノそのものです。否、ケダモノは同類の者は滅多に食いませんから、その悍ましさはケダモノ以上です。それは兎も角、弱り切り怯え震える蛹田師団長も殺して食べて彼だけ生き残ってジャングルに住み着いたのでした。  腐乱死体が残らないのは良いのですが、酷い掃除屋もあったものです。これを見たなら草原の掃除屋ハイエナも嘸かし真っ青になることでありましょう。それにしても彼は何者だったのでしょうか。どうせ食うなら戦犯にならずに戦後も反省せずに生き続けた無駄口司令官を食えば良かったのに・・・
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