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第3章『恩讐を超えて』
その1
ケイコ
夜7時ジャスト、南玉連合の緊急幹部会が始まろうとしている
今日の会場は、印刷会社を営んでいるメンバーの家の協力で、倉庫代わりに使っている一室を借り、会議室に仕立ててもらった
...
「今日はみんな、ご苦労様。夜の急な集まりになったけど、臨時幹部会を始めよう。すでに周知のとおり、多美が男女5人組に暴行を受け、足にやけどを負った。相手はその場で我々の勢力に対し要求を突き付けてきたことから、名乗りはしなかったが、排赤勢力の砂垣一派によるものとみて間違いない…」
トップの祥子による進行で、まずは粛々と多美が襲われた経緯を皆に告げている
「…幸い、多美の負傷は軽いもので、数日中に退院の見込みだが、南玉のリーダーを卑劣な手段で手に掛けた行為は、断じて許すことができない!兼ねてよりの奴らによる挑発行為にも静観してきた訳だが、今回は明らかに我々に対する開戦宣言だ。よって、連中とは全面的に対決する姿勢を決したいんだが、みんなはどうだ?」
「異議なし!」
「断固戦うべし!」
「排赤勢力は徹底的に潰せ!」
皆に異論はなかった
まさに会場内は打倒排赤で、すでにひとつになってる…
...
「よし、排赤勢力とは全面対決。これで行くことに決する。じゃあ、これから当面の方針を決めていきたいんだが、まず、今日はOG代表として恵川先輩にも立ち会っていただいてる。先輩、よろしく…」
「ああ、よろしくね」
「それと、各校勢力のリーダーだった、おけいにもオブザーバーの立場で今日は来てもらった。彼女には、今回の戦いでは何かとアドバイスしてもらおうと思う。おけい、頼むな」
「うん」
隣の祥子にそう返事をすると、目で合図されたので、私は席を立って口を開いた
「皆さん…。まずは、この夏、自分の勝手で南玉を脱退して迷惑かけたこと、ここで改めてお詫びいたします。本来なら、みんなの前に顔を出せる分際じゃないんだけど、私にできることは何でもするつもりです。よろしくお願いします…」
私はこう言ってから、頭を下げた
”パチパチパチ…”
「おけい、こちらこそ、よろしく!」
「あんたが戻ってきたら百人力だ!」
拍手とみんなの温かいエール…
早くも瞳はウルウルしてるよ…
...
「じゃあ、まずはだ…、本格的に相手と構えるには、こっちの体制をしっかり固める必要があると思うんだ。南玉は一本にまとまったばかりだしな。今回の件を受けて多美からは、当面私がトップをと頼まれた。その多美が戻って来たら、彼女にはサブについてもらう。さらに各校部隊はさえ、ドッグスを含めた走りの部隊を静美が仕切る。これでどうだろうか?」
「異議なし!」
これも全会一致だった
「よし。なら、みんな、よろしく頼むよ。次に具体的にこれからどうするかを決めて行きたいんだが、まず、今回の敵だ…」
祥子の物言いは、極めてストレートだった
相手は砂垣さんを先頭とする排赤勢力ではあるが、対立の図式はもはや男と女、埼玉東京という垣根を超えたものだとみんなに告げた
そして、相川先輩から聞いた話とほぼ同様のアプローチで、南玉連合に共同歩調を表明している各勢力を結束する必要性を説いた
...
「…、我々の理念は、今じゃ県外にも広く認知されている。その影響を受けて、複数の地域で赤塗りのムーブメントが起こり、そこから我々のような組織が生まれた。彼女らは、今回を受けた南玉連合に熱い視線を送ってるよ。いくつかのグループからはエールも届いてるしな。そういう意味では、南玉を軸とした協力勢力を一堂に集めるなり、結束のアドバルーンを上げ、呼応すべきだと考えている」
会場のみんなはほぼ全員が頷きながら、祥子の力強い言葉に聞き入ってる様子だ
「…、だが、実際にとなると、やはり去年の再編騒動での確執があるからね…。まあ、そう簡単にはいかないのは、皆も承知のことだろうや。私は麻衣の側で仕掛けた張本人の一人だったし、心苦しい限りなんだが、今は過去の恩讐を乗り越えないと…。そこでだ…」
さあ、祥子が切り出すぞ
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