第3章『恩讐を超えて』

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その2 ケイコ 「いきなりすべての勢力が一致団結ってのは、どうしても無理がある。去年の件では、それぞれに言い分はあるだろうしさ。ここは、個別での事前調整が不可欠だと思うんで、南玉離脱組と紅組、それに墨東会OBには、おけいがその窓口となる。そして、反南玉勢力、紅組離脱グループらには、久美がその折衝にあたってもらったらと考えてるんだが…。どうかな?」 「賛成!」 これも一斉に声が揃ったわ と思ったところで… 「ちょっと、待ってほしいんだけど!」 その声の主は恵川いづみ先輩だった ... 「あのさ…、今の件、方法論としては異論ないし、横田の抜擢は適任だと思う。だけど、北田はダメだろが。一応、南玉復帰は認められたけど、後ろ足で砂をかけるように勝手に出て行って、こっちに弓を引いた人間じゃないか、北田は!そんなヤツに南玉を代表させて、折衝なんか任せられない。違う?」 これは強烈だなあ… まあ、言ってることは至極、真っ当だけどね ああ…、久美は下向いてしょげちゃってる… ... 恵川先輩は、去年の再編劇では、木戸先輩と共にその対応でみんなの批判が集中してたんだけど… 肩身の狭い思いでしょぼんとしてた木戸先輩とは対照的に、この人はその後も言いたいことはガンガンって感じだった(苦笑) この春、荒子さんと一緒に引退した際、きっぱりOGの立場も去った荒子さんの代わりに、OG代表としてその任に就いても、後輩には厳しかったわ 特に麻衣や久美へは、何かとガミガミ調で常に苦言を呈していたし 一方、多美のことは、傍目にもかわいがっていたのが伝わってきた 多美も1年の時から、恵川さんには懐いていたようなんだ まあ、私としては、主だった先輩がみんないなくなっちゃったんで、いい悪いは別として、頼もしい存在ではあったよ さて…、恵川先輩の指摘をここでみんなはどう捉えるだろうか… ... 恵川さんの意見に対しては、何と高滝馬美が発言に立った 彼女は去年の夏前に、レッド・ドッグスを追放された際、久美には深い恨みを抱いていたんだよね しかし1年超の期間を経て、麻衣と久美から謝罪を受け、この夏には和解に至り、久美と一緒に南玉へ復帰したばかりだった 「…いづみ先輩、久美は南玉を出て行った後の行動には、深く反省しています。それと、悪い男にそそのかされてたってこともあるし…。南玉に復帰以来、久美もみんなの目を気にして、小さくなってます。今回の折衝は久美にしかできない役です。是非、汚名挽回のチャンスにしてやってください…、先輩!」 驚いた… ここにいる誰もが、馬美の久美に対する恩讐はよく知っていたから、みんなもちょっとあっけにとられてるよ ... 「恵川さん、私からもお願いしますよ。去年の反南玉勢力はこの久美が潤滑油になって、まとめあげたんです。いわば実績がある。信じてやってくれませんか、久美を…」 祥子は”タメ年”の先輩である恵川さんに、穏やかな口調で語りかけた 「まあ、馬美や祥子がそこまで言うなら、決をとってみてよ。それでみんながよしとすれば、私もそれでいいわ」 先輩は折れた 「では、おけいと久美をそれぞれの勢力へ、個別折衝の窓口とする。それで賛成の人は挙手してくれるか」 結果は、全員が賛成だった 「うん。可決だな。おけい、それに久美…、大変な仕事だけど、一つ頼むよ…」 私は久美と目を合わせ、席を立って、みんなにお辞儀をした みんなからは一斉に拍手が起こった 恵川先輩も手を叩いてくれてるし(笑) あー、久美は目に腕を当てて、早くも涙を拭っていたよ ... 「さて…、今の決議に連動するんだが、ここで麻衣に対しての対応もみんなに計りたいんだ」 いよいよ今日の会議、最大の難関にさしかかったわ… 「周知のとおり、麻衣は相和会の幹部と婚約した。無論、麻衣が南玉に復帰することはないよ。本人も確約してるしな。だが、どうなんだろう…。今回の敵である砂垣には、星流会の後ろ盾がついてるし。で、砂垣も星流会も、以前から麻衣を強く意識している。これは私らの頭越しだよ。おそらく、ウチらの戦いの中で、麻衣は無関係で居られないと思うんだ…」 ここが正念場だ 果たして麻衣に対して、祥子と私、そして入院中の多美と定めた方針が、みんなの同意を得られるだろうか…
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