第1章『発熱の夏、再び』

2/9
前へ
/59ページ
次へ
その2 多美 おけいが家を出た… そして、愛する人と一緒に住んでるそうだ 先週、アイツの家に電話したんだが、美咲ちゃんが出て、なんか様子が変だったのは感じた その時は泊りがけで出かけてるとかで、戻ったら連絡させるということだったわ で、一昨日おけいから連絡があった そんで、いきなり聞かされて… 驚いたわ、ともかく… 今日は祥子と3人で会うことになってる 午後4時半… バイトは4時までだって言ってたから、もうそろそろ来る頃かな ... 「でもよう…、あのおけいが警察入って高校退学とはなあ…。まあ、クスリとか相和会のバックとか、その辺は以前から薄々だったけど…。でもよう、その後家出して彼と同棲ってんだから、びっくり仰天だよ…」 展望公園のベンチで腰かけてる隣の祥子は、腕組みしながらそう言うと、溜息を吐いた 「…麻衣ともこの夏、いろいろあったみたいで、今、絶縁状態らしいしな。おけいって、私らの中では一番フツーの女子高生だったよな。本来は私らみたいな不良連中と一緒になるタイプじゃないだろ。それなのになあ…」 うん、そうだよ おけいはそもそも、南玉連合には入る気なんて全くなかったし、不良とかズベでもない 奔放だが、学校側から見たら、どちらかというと優等生だよ ... 「…思い出すよ、アイツと初めて出会った日、親善駅伝のチームが一緒だったんだけどさ。リハん時、手抜きした東京もんに突っかかっていた私のこと、体を張って制止してきたよ(苦笑)」 おけいはフェアな立場で、毅然とその場を収めたんだよな ある意味、ショックを受けたよ それからヤツとは意気投合してね… そうそう、テツヤも交えてさ(苦笑) あの日のことは忘れられない、たぶん一生… 「…アイツ、バラバラだったチームをまとめて、結局3位に導いてくれたんだ。東京と埼玉の垣根を越えてさ。祥子の言うとおり、陸上で一生懸命、部活に励んでたフツーの高校生だったな」 それが、麻衣と出会ったことで、アイツの人生が変わった… ... 祥子がいみじくも言ったよ 「私なんかさ、逆に麻衣と出会っていなかったら、今頃高校辞めてたよ。ヤツの伝手で1年ダブってた私がさ、埼玉校に移れたんだ。そんで、南玉のみんなとも、いい付き合いできた訳だし…」 祥子は当時、学校なんかほとんど行かず、フリーで暴れまわってたらしいからな(苦笑) 麻衣とは初対面で、いきなりタイマンの死闘を演じたって話は今や伝説だ 「…なのに、先生の評判も良くて、なんでも前向きで頑張ってたおけいの方はさ、麻衣と出会ってなかったら、今も部活に健全な汗流してたはずだよ。それこそ、その辺の女子高生と変わりなかったんだろうにな…」 祥子は南玉内では麻衣の側で、私らとは反目してた立場だったんだけどね でも、おけいとは肌が合ってるようで、仲が良かったよ だから、今のおけいの”境遇”には複雑な思いがあるんだろう… ... 「おーい!多美―、祥子―!」 あっ…! おけいが走ってこっちに向かってくるぞ おお…、相変わらず歩幅の広い、カモシカのような走りだ ... 「よー!おけい、久しぶりだなー、ははは…」 「祥子…、なかなか連絡できなくてゴメン。会えてうれしい…」 祥子とおけいはがっちり抱き合った 私は警察から戻ったおけいとは一度会っていたが、祥子とおけいは南玉を出てから数度会って、それ以来だろうからな なんか、傍で見てても、じーんときちゃうわ ... その後、3人はしばらく取り留めのない話で、盛り上がっちゃってね… おけいの彼氏は年上で、なんだかプロのミュージシャン目指してる人とか… 凄いじゃん… なにしろ私には、おけいの彼氏と言えば、あの”エロ男”テツヤってイメージが固まってたからね(爆笑) おけい、その年上の彼とはラブラブで、新婚さんみたいな生活してるってのろけてたわ(苦笑) とにかく、コイツが思いのほか元気なんで安心したわ もっとも、おけいのことだ 私らに気を使ってるってことはあるかもな で、先週からファミレスのバイトを始めてると… さあ、その話の流れになったなら、ここらで”こっち”の話もしなきゃ… 私は、おけいを挟んで座っている祥子に目配りをした
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加