第1章『発熱の夏、再び』

7/9
前へ
/59ページ
次へ
その7 ケイコ 「それから、もう一つ…。麻衣はもう南玉には戻らない。私が去った時点で、南玉を統一する気は全くなくなった。アイツから直接聞いたんだから、これも事実さ。理由は簡単だよ。南玉内での麻衣は、私とやり合うことを目的としていたんだからね」 ここでの私は、徹底して”事実”を強調していた 「聞いてると思うけど、この夏、南玉を出た後も、奴は私にからんできたよ。今の彼を巻き込んで。その結果、絶縁状態ってのも本当のところなんだけど、これは完全に私たち個人間の問題になる。南玉メンバーのアンタ達が、麻衣に私への謝罪を要求するってのは筋が違うんだ。さっき言ったことも含めて…」 「…」 「最後に、これは事実とは言い切れないけど、私の確信を聞いてほしい。麻衣は、南玉を排赤勢力に汚されることを、決して望んでいない。今まで好き放題、散々かき回してきたけ張本人だけど、それでも南玉連合をアイツは愛してるよ」 これには4人とも、心の中で首をかしげてる表情が垣間見れたよ 「…今も南玉の枠外で、ヤツはヤツなりに排赤勢力から紅子さんの築いた”精神”を守るために、自分のできるアクションは起こしてると思う。麻衣とは殺し合い一歩手前まで、サシで戦った私だよ。麻衣の心の深いところは、この私が一番よく知ってる。その自負があるからさ…」 「おけい…」 「以上だよ。最初に言った通り、私は自分の私的な事情で南玉を一抜けした人間だ。後をおっかぶしたアンタ達に、ここでああしろこうしろって言える立場じゃない。ただ、お願いはしたい。赤塗り実践集団の象徴である南玉連合を守ってほしい…。それには、みんなが一丸となってくれなきゃ…」 「横田先輩…」 後輩の理沙はすでに涙を浮かべていた… ... さあ、ここであらん限りだ… 「…もし、みんながまとまるってことで納得してくれて、さらにその同意がメンバー全員から得られるんなら、静美にも会って私の思いを伝えてくる。おそらく、静美達は麻衣にカムバックの意思がないことを、麻衣本人から告げられてると思うんだ。だからさ…」 「おけい‥、アンタの思い、すべてわかった。…さえ、私はこの際、まとまる方向で同意するよ。ルミはどうだ?」 まずはアカネが反応してくれた… 「私も南玉を潰したくない。なら、感情的なもんはひとまずってことで、一本化しかないよ。…うん、同意だ」 ルミ…、あんたも! 「よし、理沙はどうなんだ?」 「私も南玉を愛しています。まとまります。それでお願いします‼」 涙顔で新入の理沙まで… ... ここでアカネは一呼吸おいて、隣に座っているさえに顔を向けた 「…さえ、アンタには、去年の代継ぎお披露目だった総集会の件があるからね…。麻衣となると、そうそう、すっきりとは割り切れないと思うけど…」 やはり、”ここ”は避けて通れないか… 私は”その場”にはいなかったが、荒子さんが代を継いだ南玉の総集会では、ドッグスの静美にケンカを売られたさえは、集会後のテント内で、荒子新総長から喧嘩両成敗の鉄拳制裁を喰らったそうだ 平手ではなく、もろ拳の文字通り、思いっきりの顔面パンチだったという その時、上層部からきつく止められていたケンカを故意に仕掛けてきた一方の静美は、荒子さんの鉄拳を逃れた 亜咲さんからドッグスのトップを継いだばかりの麻衣が、責任をかぶって静美の身代わりを申し出たからだ さえからしてみれば、喧嘩両成敗は成立していない訳だよね ... その後の再編で南玉連合は、各校を統括する私の側のさえ、そして、走りの部隊を仕切る麻衣サイドの静美という色分けになった そういうことで、必然的に対立関係、冷戦状態はずっと続いてたと… 当然、二人の間に感情的なしこりが根強く残っていたのは、想像に難くないよ
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加