第1章『発熱の夏、再び』

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その8 ケイコ 「あのテントのことは、一時たりとも忘れてない。悔しかった…。別に、静美が荒子さんに殴られなかったからってことだけじゃないよ!麻衣は、上の言いつけを再三無視して、あの厳粛な総集会の場で、ケンカを売ってきたよ。それをスタンドプレーに利用したんだ!」 これは、総集会にいた誰もが周知していることだ… 「麻衣は土下座してたけどさ…、多美と私の前で。でも、私らに詫びる気持ちなんて、さらさらなのは一目瞭然だったよ。ヤツは計算してたんだ。勝手に祥子さんをドッグスに加入させた件と、バーターにできるってことで。ふざけんなって‼荒子さんの総長就任の記念すべき瞬間を、心から祝福してた私らの心をもて遊んで…」 「さえ…、多美だってその時のこと、忘れてないよ。多美は言ってた。あの総集会で、最初に手を出したのは自分だったからって。挑発してきた久美を、ボコボコにしてたのを先輩らに咎められてさ…。今日はこれ以上、絶対ケンカすんなって、親衛隊に号令かけたのは私だったんだとね…」 当時から多美は、荒子さんの親衛隊に並み居る”狂犬コピー”の中でも、秘蔵っ子格だったそうだ ... 「なのに、ケンカ仕掛けられても殴られ続けてたさえには、麻衣が土下座したんだから我慢しようやって諌めた。それ、さえの気持ちだったら、納得いかなかっただろうに、あの時は荒子さんの立場を優先させた…。そういう気持ちに苛まれてたんだよ、多美もさ…」 「おけい、アンタに言われれば、そこで納得さ。でも、アンタはもういないんだ、南玉には…。ここではいったん納得しても、これからを思うと信じる糧がないんだよ、私らには‥。だから、今ひとつ踏ん切りがつかない。これが本心だ、少なくとも私の…」 「さえ、私はもう南玉には戻れないけど、みんなとは今後も一緒に問題を共有するさ。後任に多美を指名したのは私だ。彼女の足りないとこで、組織外の私が補えるんであれば何でもやる。力になる。多美と祥子は、私心も過去のいざこざもすべて捨ててるんだよ。ここは信じてやって欲しいんだ…‼」 精魂込めて、吐き出した… 亜咲さん、紅子さん、こんな程度です 私にできることは…
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