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初夏のとびら
ジリリリリリリリリ!
ジリリリリリリリリ!
ジリリリ……ピッ。
「う~ん……」
けたたましく鳴り響く目覚まし時計になんとか手を伸ばす。
スマホのアラームじゃ私が起きないからって、母さんがこの春引っ越してきた時に買ってくれた、この子の大声は凄まじい。有難くないことに、大好きな二度寝すら絶対に許してくれないほど、完璧にその役割を全うしていた。
それでも、ささやかな抵抗とばかりに、意地でも目は開けない。開けないのだけど、寸足らずの遮光カーテンから、容赦ないモーニンググロウが毎朝差し込んでくる。住みだしてから、この部屋の日当たりの良さを恨めしく思うようになるまで、それほど時間はかからなかった。
トントントントントントントン……。
トントントントントントントン……。
「……スゥゥ…………フゥーーン……」
大きく鼻で深呼吸しながら、リズムよく準備される朝食の音を耳の奥でかすかに、確かに、じんわり吸収していく。まだ、目は開けない。
トントントントントントントン……ジーワジワジワジワ……。
トントントントントントントン……ジーワジワジワジワ……。
まだ夏本番前ですし、と言わんばかりにやや控え目なセミの合唱が、母さんの包丁さばきと二重奏になっている。声の大きいあいつに起こされた後のBGMとしては、ピッタリな心地良さがあった。ほんのつい、最近までは。
タン、タン、タン、タン!タン、タン、タン、タン!
つかの間のまどろみを、一段飛ばしで階段を降りるお兄ちゃんがかき消す。それを合図に重たい身体を嫌々起き上げる。じゃないと少ししたら、一階から母さんが目覚まし時計に負けない大声で私を呼ぶからだ。充電機を差し忘れられて、虫の息になったスマホを手に取る。テスト前からだからもう、二週間以上経つ。
吾輩はJKである。返事はまだない。
ジュ~~~!
顔を洗って歯磨きも済ませリビングに来ると、卵焼きのいい匂いが鼻の奥に広がった。最近は食欲がなくて、朝ご飯なんて尚更箸が進まなかった。だけど、卵焼きは大好きだからそれだけは無理してでも完食するようにしている。カバンを下ろして食卓についたら、ちょうど母さんがお皿を出してくれるところだった。
「あんたここのところ朝は卵焼きしか食べないから、二つ分焼いといてあげたから」
「あ、ありがとう」
あんまり嬉しくはない。
「テストの結果」新聞紙越しに顔も見せずに父さんが言う。「いまいちだったらしいな。志望校、大丈夫なのか」
「……うん」
たまに口を開いたと思うと、いつも耳の痛い話をしてくる。父親とはどこの家庭でもそういうものなのだろうか。素っ気ない私の返事にやや語気を強める。
「二年の終わりから成績も落ちる一方だから、本腰入れるように言ったばかりだぞ。バイトするのを認めたのも、外泊を許すようになったのも、お前がちゃんと頑張るって答えたからだ」
「こ、今回はヤマが外れただけだから。次は良い点とる」
卵焼きを口に放り込みながら、受験生のくせに我ながら苦しい言い訳をする。
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