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no.2
午前の仕事が一段落した後の、密やかな楽しみ。俺と先輩と二人だけのランチタイム。
働いた対価として、有り難く、この時を独り占めする。
誰の邪魔も入らずに、こうして先輩と向かい合って食べる飯はとにかく、旨い。俺の五感が、俺の全神経が、佐久先輩に向けられる。
好物は肉。昼飯に魚は食べた気がしないらしい。ラーメンならとんこつ。トッピングの味付け卵は絶対だ。男二人でパスタを食べることはめったにないが、一度だけ、仕方なく入ったイタリアンレストランで、先輩が頼んだのは、カルボナーラだった。クリーミーなこってりした味が好きとのこと。デザートのティラミスも注文すると、実は甘い物も結構、好きだと言うことが知れた。男らしい先輩の意外な好みが分かり、なんだか、得した気分になったことを覚えている。
「あっ、俺、財布、忘れました!」
「お前な。。。」
財布を忘れた俺をあきれ声の先輩が見下ろす。こう言う時の高身長はずるい。背の低い俺を眼差しだけで、簡単に威圧する。まるで、怒られた子供みたいに先輩を見上げると、先輩の長い指が俺の額を小突いた。イテッ。
「しょうがね~な。今日、おごってやるよ。」
「あっ、いや、そんなん、悪いです。明日、返すんで、金、貸してもらえますか?本当に、すみません。」
「そんなん、いいって。それより、お前ってさ、仕事はそつなくこなすのに、なんか、所々、抜けてるよな。やっぱ、天然か。」
「天然。。。?」
「そう言うの、ギャップ萌えって言うんだろ?お前、ずるいわ。」
「そっ、それ、どう言う意味ですか。。。?」
もしかしたら、男の俺でも、先輩を萌えさせることもあるの?と、半ば、嬉しさを隠せず、ハニカムと、先輩は涼しげな顔で
「そりゃあ。女にもてるはずだわ。」
と、あくまでも、対象は女性であることを告げてきた。
俺は、佐久先輩が好きだ。恋愛対象は同性だし、そんなことを言われても、全く嬉しくはない。
先輩の一語一句、一挙一動が、意図も簡単に俺を落胆させること、分かってほしい。
何気ない先輩の一言は、本当に、キツいんだ。
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