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半年経ちました。 2
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
あれから半年。
この写真を見ると、当時を思い出して笑みがこぼれる。
巻き添えで出産に立ち会い、パパにさせられた、どこの誰だかわからない名無しのヒーロー。
あの後、後産のタイミングでイケボのイケメンは廊下に出され、そのまま、帰ってしまったようだ。連絡先もわからず、お世話になるだけなったのにお礼も言えていない。
写真の中のイケボのイケメンは、エプロンにマスク、キャップを付けているし、タクシーの中で見た彼の顔は、痛みで朦朧としていたせいか、イケメンだった事ぐらいしか記憶に無なかった。
きっと、道ですれ違っても気が付かないかも知れない。
それに私自身も痛みでずーっと顔をしかめたままで、どんだけ不細工になっていたかと思うと、気が付かないでいて欲しいぐらいだ。
そして、病院で撮ってもらった写真は宝物になった、どこの誰かもわからないヒーローとの記念写真。
その写真をデザインフレームに入れてチェストの上に飾る。
おぎゃーおぎゃー。
「はいはい、お腹が空いたのかな?」
可愛い我が子に母乳をあげる。母親としての至福の時だ。
可愛い我が子であるが、不誠実だったこの子の父親を思い出すとイラッとする。
既婚者だった癖に、独身とウソをつかれたのだ。まんまと騙された事がわかった瞬間に、三下り半を突き付けた。
別れた後になって妊娠が発覚が発覚した時には、産むか、堕胎するか、選択の岐路に立たされた。
なにせ、両親は無く天涯孤独の身、独りで産んで育てる不安は大きかった。
それでも28歳という自分の年齢を考えれば、例えシングルマザーになったとしても産んでおくべきだと考えたのだ。
幸い、両親の残した土地を担保にしてアパートを建てたものがある。
銀行から借りた建築費のローンとアパートの収益の差額が、毎月一定額の不労収入があるのだ。
住居もそのアパートに一室を使っているから住むところのも困らない。
贅沢は出来ないけれど、母子家庭でもどうにかやっていけるのだ。
出産を期に退社、フリーのイラストレーターとして独立し、子育てを優先しながらの生活を始めた。
仕事の方は、順調とはいえない。WebにイラストをUPして、それをダウンロードしてもらうと売り上げになったり、個人に依頼されて書く事もある。
まあ、ぼちぼち……。
ある日、有名出版社の編集からメールが届いた。
人気作家・朝倉翔也の新刊の表紙依頼だった。
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