初雪で雪像を作る風習

3/3
前へ
/3ページ
次へ
ひらりはらりと雪が下りていく。眺めてはつられ虹の橋からひょんひょんと踊り跳ねていろんなやつが落ちていく。狩のホンノーだからしかたない。落ちたついでとふわりふわりと雪花にじゃれて(懐か)しの我が故郷()にみんな帰り着いちゃうんだ。雪の日は、だから境界は揺らがないのに逢える不思議がたくさんになる。べつに神様ががんばらなくてもそんなことくらいはどってことないんだ。 だけどネーチャン。なあネーチャン。 あんな雪猫ぐらいで泣かないでくれよ。 かーちゃんが鼻を鳴らして怒っちゃうだろ。 かーちゃんは三毛柄が自慢なんだぞ。神様が寝ぼけたまま落書きしたあのひとつも重ならないヘンテコ三毛柄。あんな真っ白な雪猫はアタシじゃないわ不細工ねぇってシャーシャー息巻いてる。 「シロコさんはね、ホントはスノウホワイトって名前だったんだよ。」 「三毛猫に白雪姫名乗らせるセンス頭悪いわ。間違えない勇気って大事だね。」 「白雪(シラユキ)でもよかったんだけどね。」 「むしろ白雪にしてほしかった。白い子は壊滅的なセンスだぜ。さっき誉めた私の気持ち返して。」 「シロコさんはね、」 「おい、話聞け。」 助手席から眺める休日の午前8時の閑散とした国道はスムーズに流れている。昨夜からの猛雪の徹夜除雪であちこちに雪山が出来ていて、あーここにも休日深夜出勤労働者がいたわ、とイヤそうにシオヤサンはへの字口を結んだ。運転手のネーチャンは、晴れてきたね、と青空に反射して白くなる視界に目をパシパシと瞬かせる。 かーちゃんの一番最初は俺の知らない、だけど、繰り返し繰り返し口にするから俺が生まれる前の仔猫だったかーちゃんを俺も知ってる、をまた口にして、可愛かったのよ、で締めくくる。その先を胸の奥に仕舞い込んで終いにする。 それをかーちゃんは尻尾を叩きつけるほどイライラと眺めるんだ。魅惑の尾の動きに兄ちゃんが噛みつき俺も混ざって取っ組み合う。両手を広げ立ち上がり勢いあまったデメがかーちゃんに飛び込んで、シャーッって怒られて俺らは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。ぱふんと雲にダイブして隠れて見れば、ふんっと踵を返したかーちゃんはちっとも寒くなんか無い天上で寒々と丸く縮こまって、薄目で下を眺めまた尻尾を叩きつけていた。 冬の夜。下っ端猫しか居ないベッドは広すぎて寒すぎてつまんなそうだ。だけどネーチャンだけよりはマシだからアイツがまだ下に居られるよう聖夜の神様に頼んどく。ついでにサンタのおっちゃんにも頼んどく。おっちゃんには空飛ぶトナカイがいるから俺たちにもあずかったプレゼントを持ってくるんだ。高級猫缶ありがとな。でもさ缶詰め開けられる俺がいなかったらアウトだってことわかってないだろ、ネーチャン。だからポンコツなんだよ。 次の雪の日にかーちゃんも虹の橋まで連れてってホンノーで落ちてくから部屋温めてまってなよ。ハッピークリスマスだぜ、ネーチャン。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加