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初雪で雪像を作る風習
さあ!やるわよ!!初雪よ!と明け方4時に、いや、明けてない薄墨に紺を混ぜて尚も白々しい雪空模様の午前4時に現れた冬装備のシンユウのシオヤサンはインターホン越しに初雪だ!起きろ!と喚いた。
ネーチャンは寝ぼけたままベッドを抜けて、アルミの軽量角形スコップ、略して角スコを玄関先の雪だまりにぶっさし仁王立ちの小柄な姿ををインターホンで確認し項垂れ、窓からも確認し、溜息を吐いてから玄関のチェーンロックを外した。リアルな悪夢だわと認め、ぶるりと震えたのは単に寒かったからだ。それはそうだ。師走の後半の明け方4時はマイナス気温で、パジャマに半纏で凍えないはずがない。ダウンのベンチコートに紺色の防寒パンツ、フェイスマスクにニット帽のシオヤサンは押し入り強盗さながらだ。強盗じゃないと判断したネーチャンは彼女の親友だからだ。あからさまに怪しい格好でも見分けられてしまう伊達に長生き付き合いじゃない。だけど。頼むから近隣にも見咎められてませんように。通報されてませんように、とネーチャンは考えてる。しぶしぶ玄関に招き入れると彼女は雪だまりにさしたままのスコップを手放した。
「何時かわかってる?」
「朝一番!」
「、、コーヒー飲む?」
「朝食は山パンプレミアム出来たてよ!」
「夜勤明けの奇襲やめて。」
玄関から一直線のリビングダイニングに当然火の気はない。吐く息も白い。室内気温だってギリマイナスじゃないだけの冬の早朝はこんなテンションで受け入れるべきじゃない。
「初雪遅かったじゃん。でも今朝は積もったからイケるね!」
「初雪がドカ雪で根雪の今冬は事案だぜ。週明けだったら地獄の出勤渋滞だわ。黒潮憎し。」
「黒潮?なにそれ。赤穂の塩が値上げの話ならモンゴル岩塩の君んち関係無いじゃん。工場が発電機落ちで呼び出されたの。クリスマスケーキラインとスポンジのコンベアやばくて徹夜明けだよ!焼きたてパンは工場長からのお詫びだって。ふ。私もやすくみられたものだな。」
予約売り1斤1700円の食パンは安くないし焼きたては誰の口に入るもんじゃない。夜勤手当ても出張手当ても出るじゃん、とは言わなかった。美味しいパンに罪は無い。
ぼぼぼとくぐもった音で芯に灯油が回ったダルマストーブの火力を調整したまま鼻水をすすり頑なに動こうとしないシオヤサンから、まだ湯気が立つような食パンを受け取る。2階から非難囂々の年寄り猫の叫び声がして、ああ、起きちゃった。寂しいねぇ寒いねぇ、お布団添い寝懐炉になってあげれなくてごめん、とネーチャンはまた溜息を吐く。仕方ないから代わりに様子みといてやるよ。俺は温かくないけど下っ端の面倒はみてやるよ。
かーちゃんちょっと行ってくる
いつかの冬のぬくぬくした部屋のだらだらする幸せを想ってひゅんと虹の橋から飛び降りた。
俺はちょっと前にネーチャンとお別れして天で遊んでる猫のグレイ。ネーチャンは人間だからまだまだこっちには来れない。ネーチャンはポンコツだから俺は忙しくないときは、ネーチャンをみてやるんだ。忙しいかーちゃんの代わりにネーチャンがさみしくならないようにみてやってる。着地は百点満点だ。ジジイになった下っ端猫の真上に降りてべしりと叩けばキョトンとした後うにゃぁうと喜んだ。
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