汚術館

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はぁ、この村の出身ではなさそうですね。 すらりと背が高く、白衣を着た青年は、何が楽しいのかは知らないけれど、ニコニコと柔らかく笑っている。黒髪の好青年。清潔を擬人化したら、こんな感じになるんだろうな。かすかにアイロンのにおいがする。 「海老せん1つですね、500円です。袋にお入れしますか?」 結構です、と青年がニコニコしたまま答えた。声も爽やかだ。売れっ子の声優みたいな声。 500円玉を置き、ありがとうございますと言って、青年は海老煎餅を持って店から出て行った。ニコニコ顔を最後まで崩さずに。扇風機の首までもが彼に惹きつけられていた。 あんなに綺麗な人も、ウチの海老煎餅を食べるのか。太平洋の潮風になぶられて50年のおみやげ屋の中で、海老煎餅だけが六本木のごとく輝いている。 あの人は、どこに住んでいるんだろう。この村で生まれたのではないだろうけど。だとしたら、どうして海老の他には何もない漁村に引っ越してきたのだろうか。どこから来てどこへ行くの?
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