第一章「袖振り合う世の縁結び」

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 片や、前世からつづく関わり。  片や、今生かぎりのわずかな繋がり。  念のため記しておくと僕は熱心な仏教徒ではない。  輪廻転生も因縁生起も釈迦の説法もピンとは来ないまま、除夜には寺へ、正月には神社へ、クリスマスにはローストチキンを食べている。  混沌とした宗教観を内包しながら暦を刻む、二十一世紀の日本で生きていながら、僕は真面目に、人と人との出会いについて考えている。  立ち止まった雑踏で、ふと哲学的な問いを反芻するようになったのは、この街であの人と出会ってからのことだ。  あの人と僕との間に結ばれたこの淡い繋がりは、確証のない「多生の縁」とやらに引き寄せられたものか。  それとも、袖を振り合ううちにほどけてしまうほどの「多少の縁」に過ぎないのか。  考えるだに詮無いことに想いを馳せてしまうのは、知ってしまったからだろう。  世界に潜む、この世ならざるものの存在を。
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