転がる石のように

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転がる石のように

夕食を終えると足早に自室に戻った清汰(せいた)は 陽の落ちた後の暗い部屋に、点滅する緑の小さな光を見つけた。 部屋の明かりを灯すのも後回しにして スマートフォンを手に取るとベッドに倒れこみ 画面のポップアップを確認する。 そこには『新作コミック発売予定一覧』と書かれていた。 目当ての返信ではないと知るや 清汰は力尽きたように仰向けに寝返り、大きく息を吐いた。 静まり返った部屋の中でただ一つ 清汰の心臓の鼓動だけが落ち着かないままだった。 清汰がこの一週間、耽溺(たんでき)していたのは バルーンレターというマッチングアプリで出会った一人の女性だった。 最初の内、彼女の名前はジミ・ヘンドリクスだったし 二、三日前はエイミー・ワインハウスだったけれど 昨日からはカートコバーンになっていた。 三十を目前に控えた社会人女性。 いまだ高校生の清汰の生活圏からは遠く離れた存在だ。 それでもプロフィールを見る限り 同じ県内に住んでいるという距離感によって 清汰の胸はひっそりとときめいていた。 清汰はしばらくの間、天井をぼんやりと眺めていた。 遠くで電車が走る音が何回か聞こえて、それから 階下から母親が風呂に入るなら早くしろとせっつく声が聞こえるまで。 清汰は仕方なしに、足を高くあげて、反動で立ち上がった。 枕の下に半分埋もれたスマートフォンが震えたのはその時だった。
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