転がる石のように

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清汰は食い入るように三度メールを読み返してから その手でバードマンという文字を検索エンジンに入力した。 それから明日行われるライブの会場や オークションでチケットの転売について調べた後で浴室に向かった。 途中、リビングから月島雫が歌うカントリーロードが聞こえて清汰が中を覗くと 金曜ロードショーのCMとテレビの正面のソファを陣取った妹の二奈(にな)の姿が見えた。 画面が音楽番組に切り替わり韓流スターが登場すると 二奈はスマートフォンをきらびやかな団扇に持ち替えて嬉々とした声をあげた。 清汰は湯船に浸かると、先ほど届いたばかりのメールの内容を思い返す。 浴槽にはCMで流れていた曲と同じ、カントリーロードが反響していた。 小学生の頃に音楽祭で歌ったきりだというのに 歌詞がすっかり口に染み付いていた事に気が付いて、清汰は少し驚いた。 しかし、鼻歌を歌う程に上機嫌だという感情の高ぶりには気が付いていなかった。 バードマンのライブ会場は清汰の家から それほど離れていない場所にあった。 さすがに前日にチケットは出回っていなかったけれど キャパシティの広くない会場である事を考えれば 直接会えるかもしれないと妄想がどんどんと膨らんで いつもより三十分も長風呂をしていると 唐突に、母親が浴室の扉を開けて 「寝ちゃったのかと思って心配したわよ、つかえてるんだから早くしてよね」 と悪態をついて出て行った。 妄想以外に膨らんだものを母親に見られずに済んだ事に胸を撫で下ろした清汰は 浴室を後にすると、火照った体で返信のメールを打った。
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