対ロクマタオロチ

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対ロクマタオロチ

 荒廃した大地に張られたバレーボールコート。  今、ネットの前で八人のプレイヤーが呆然と立ち尽くしている。  男女四名ずつだ。各ポジション二名ずつ、さらにはリベロ、マネージャーも一名ずつ。  おのずと男女混合チームが形成されている。  まるで試合開始前の静けさだ。  しかし相手チームの姿はない。  女子陣四名は口を閉ざしている。見知らぬ土地を見渡し、時折小さく首を振る。 「ここどこだ?」  女子陣に代わり、男子陣の砂村義人が口を開く。レフトプレイヤーの一人だ。 「まだ夢の途中だったのかよ。怒られ損じゃねえか」  渋沢圭司が続く。砂村の対角のレフトプレイヤーだ。 「先輩? 僕たちは今、どこにいるのでしょう?」  オドオドした口調で桂拓海が言う。ミドルブロッカーの一人。 「わからん」  ぶっきらぼうに返したのは薬丸愁。桂と同じミドルブロッカー。  コート後衛で縮こまる女子陣を見遣る。 「心当たりある?」  女子陣は一斉に首を振る。 「こんな所で試合の予定はないから、とっとと――」  砂村が続けようとした、その時――。  ――ピイイィィッ!  突然、ホイッスルが鳴り響いた。  まるで試合開始の合図のように。  地響きがする。 「おい! あれ!」  渋沢が相手コートを指差す。  今、地面が割れ、地中から対戦相手がその姿を現した。  それは六つの首を持つ――ロクマタノオロチだった。  コート脇に得点ボードを模したモニターも同時出現する。 【試合開始まで――残り一分】  地上に姿を現したロクマタノオロチは、六つの首を天に向けて伸ばす。空には薄紫色の雲がどんよりと広がっている。  特徴は日本神話に登場するヤマタノオロチに酷似している。ただし尻尾はなく、首は八本ではなく六本だ。それらがコート上で配置につく。前衛三本、後衛三本。  モニターに新たな表示がある。 【ルール】  ・基本的ルールは現代のバレーボールに準ずる。  ・一セットのみで、十点先取したチームが勝利。  ・各チーム、タイムは二回まで。一回につき二分。  ・ 「何なのコレ?」  口を閉ざしていた女子陣も、この異常事態の連続にとうとう声が漏れる。  佐々木知子は首を振りながら口元を押さえている。ライトプレイヤーの一人だ。 「知子ちゃん、帰りたいよお」  佐々木に縋りついているのは宇佐美ほむら。彼女はリベロプレイヤー。 「こんな奴と、試合をしろっての?」  モニターを睨みながら草地ちえりが言う。彼女は佐々木の対角、ライトプレイヤーであり唯一のセッターだ。 「ちょうど相手も六――ルール違反ではないようだけど」  唯一のマネージャーである辻瑠香は、オドオドする他の女子陣とは違い、落ち着いた視線で各メンバーを見つめる。 「おい! 来るぞ!」  砂村の号令で、メンバーが一斉にロクマタノオロチを見つめる。  六本の首がキッとメンバーを睨む。どの首も同じ長さで、顔は蛇そのもの。威嚇するように開いた口から二本の長い牙が覗く。  身体はコート中央に鎮座している。脚はなく、まるで大きな肉塊から六本の首が生えているように見える。  今、後衛の一本がいつの間にかバレーボールを器用に額の上に乗せている。それはメンバーがいつも使用している赤白緑のラインが入ったボールだ。 「まさか……」  モニターに変化があった。 【試合開始 0―0】  直後、短いホイッスルの音が鳴り響いた。
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