対ロクマタオロチ

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 私はすかさずタイムを要求した。  普段だったら主審がいるけど姿は見えない。とりあえず大声で叫んだらホイッスルが一回鳴って『タイム承認――残り一分五十秒』とモニターに表示されたのでみんなを呼ぶ。  理屈はわからないけど、この試合に負けたら命がないことを目の当たりにした以上、全力で試合に勝たないといけない。  涙を流す知子やほむら、それに桂くんを気にしながらもはっきり言う。 「みんなの命がかかってる。本気で勝ちにいくわよ?」  私は返答を待つことなく、携帯ボードに即席の表を書く。 「みんなのポジションは把握したわ。それで、初期ポジション決めてみたの」  全員、食い入るようにボードに目を落とす。 『初期ポジ』  前衛   ・レフト  二年 砂村くん   ・センター 一年 桂くん   ・ライト  二年 ちえり(セッター)   ※リベロ  一年 ほむら(センター桂くん後衛時)  後衛 ・レフト  二年 渋沢くん ・センター 二年 薬丸くん ・ライト  一年 知子 「すげえな辻さん! いいじゃん」砂村くんが大きく頷く。「早速組もう!」 「男バレにもこのくらいのマネさん欲しいよなあ」  ちぇっと舌打ちをして後衛に向かう渋沢くん。 「瑠香センパイ! 流石です!」 「辻先輩の鉄腕采配炸裂ですねっ」  知子とほむらの一年ペアが涙を拭い、ポジションにつく。 「ほむら! まだ出番じゃないわよ!」 「わわ、すみません……つい」  ほむらはリベロなので、前衛ではなく後衛で守備を担当する。  対応選手は桂くんなので、彼が後衛の時のみチェンジする。 「桂、大丈夫か? いけそう?」  薬丸くんが桂くんを気遣う。彼は恥ずかしそうに涙を拭き、小さく頷く。  コートの中で戦う彼らの緊張感は、計り知れない。  それと同じくらい、コートの外で見守るのも結構キツイ。 「みんなっ! 張り切っていこう!」  応援しかできないから。 「辻さん!」  ポジションについた砂村くんがネットに手を伸ばしながら声を上げる。 「ネット、多分女子の高さとそんなに変わらないよ」  高校男子のネットの高さは二メートル四十センチ程。対して女子はそれよりも二十センチ低い。ということは、男子にとってはかなり有利ということ。 「バンバンいけるよ! なあ渋沢?」 「バッチこい。後悔させてやんよ」  心強いエース二人で、ほんとによかった。
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