対ロクマタオロチ

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 敏腕マネージャー辻の采配通りにポジションにつくメンバー。  それを確認したかのように、どこからともなくホイッスルの音が響く。  六又の一本がサーブを放つ。  ――このくらいなら!  構えながら砂村は少しだけ安堵した。先程は全くボールが見えなかったが、今度はしっかりと捉えることが出来たからだ。それでも球速はかなりある。まるで去年の全国一位のチームが仕掛けたドライブサーブのようだ。  しかしそれならこの夏、それに匹敵するくらいの球を受けている。  対応できなくはない。  ボールは縦回転しながら、やや湾曲するようにコートに迫る。 「バックっ!」  ボールは後衛の渋沢に牙を向く。一瞬驚く渋沢だが、すぐにレシーブの構えをする。 「上がったっ!」  高々とボールが上がる。それは見事にも自陣内に留まる。  すかさずセッターの草地が小柄な体をボール下に滑り込ませる。 「レフトもってけーっ!」  声援の後押しもあり、レフトへオープントスを上げる。  回転を殺したほぼ無回転のボール。アタッカーにとってはこの上ないトスだ。  控えるは――エース、砂村。  軽やかな動きでボール目掛けて飛び上がり、視界の端で相手コートを見る。  六本の首がしっかりとこちらを見つめている。ブロックはなし。全員がレシーブで対応出来ると高を括っているようにも感じられる。  ――上等だよ六又野郎!  砂村はボールに右手を叩きつける。しっかりとミートしたボールに爆発的な力が加わり相手コート目掛けて鋭角に牙を向き返す。  ボールは六又の首を縫うようにして、コートに突き刺さった。 【1―1】。 「よっしゃあっ!」  まずは一点取り返し、コート内の全員が集まり手を合わせる。勝利への第一歩だ。 「いいぞお! 砂村くん!」 「砂村先輩ぃ! ナイスアタックーっ!」  固唾を吞んで見守る辻、宇佐美も喜びのあまり飛び跳ねている。  ローテーションにより配置が変わる。  サーブはセッター草地。後衛に下がる代わりに、佐々木が前衛へ上がる。  地面が割れて飛び出したボールに若干戸惑いながらも、その場で何度か地面にボールを打ち付け、肩慣らしとミートの確認を行う。  短くホイッスルが鳴り、草地がサーブを放つ。  前衛の三人――砂村、桂、佐々木はごくりと唾を飲みこむ。 「――ゴオオォォ」  明らかに、六又たちの目つきが変わった。  草地のサーブを軽々と額でレシーブし、セッター担当の首がトスを上げる。  ――しまっ……。  ブロックの態勢をとっていた桂がそう思ったときには、相手のスパイクが自陣を揺らした後だった。 【1―2】。  今までに経験したことがないほどの高速クイックだった。  戸惑う桂に後衛の薬丸が声を上げる。 「反応してから飛んでも間に合わない! 常にクイックが来ると思って飛べ!」 「でも先輩! それではオープントスが上がった時、がら空きになります!」  ブロッカーが常にクイック対応に入ると、サイド攻撃が来たときにブロックが手薄になってしまう。これでは攻撃され放題だと指摘する桂に、後衛のメンバーが頷く。 「サイドはレシーブで対応するから安心して飛んでくれ。クイックは任せたぞ」  薬丸の言葉に、後衛の渋沢・草地も胸を張る。戸惑いながらも桂は頷く。  サーブ権は六又へ。先程と変わらないドライブサーブ。  後衛の薬丸が何とか処理し、草地のトス。  センターにいる砂村がスパイクを放つ。  しかし六又は先程とは違い、ブロックを仕掛ける。  しかも三本。前衛全員がブロックにつくのは最高難度の一つ。攻撃がセンターだったとはいえ、いとも簡単に仕掛けてみせた。六本の首を一つの身体で制御するロクマタノオロチならではの統率が取れたブロックだ。  砂村のスパイクは簡単に跳ね返され、自陣に落ちる。 【1―3】。  ――冗談きついな。  砂村は壁と化したブロックを見上げている。三本の首がネットを追い越し高々と聳えている。これではブロック上を狙うことも出来ない。天井サーブをしてようやく通過できるレベルだ。 「砂村くん! コース、狙って!」  コート脇から辻の声。 「高いブロックだけど、互いに隙間が空いているわ。そこを狙えば通るはずよ!」  砂村は頷き、レシーブの構えにつく。  六又のサーブは前衛に落ちる。緩急も自由自在だ。砂村は素早く対応し、草地に託す。砂村はスパイクの態勢をとるも、サーブ処理をしたことで若干もたつく。 「レフトっ!」  瞬時に判断した草地はレフトにトスを上げる。  構えるは、佐々木だ。六又はブロックにつかない。  ――これならっ!  佐々木は流れるようなフォームからスパイクを放つ。  ふわりと前へ落ちる――フェイントだ。  意表を突かれたとばかりに六又は動けなかった。 【2―3】。 「知子、ナイス!」  集まるメンバー。草地は佐々木の肩を叩いて称える。 「さあ! これからですよ!」  佐々木の激に、コート内の指揮が高まる。  陣形は変わり、桂がサーブのため後衛へ。前衛に薬丸。  桂はサーブを放つも、惜しくもネットに阻まれる。 【2―4】。  申し訳なさそうに俯く桂。 「ドンマイドンマイ!」  声援に少し表情を軽くする桂。コート脇で宇佐美とチェンジ。 「お願いしまーすっ!」  後衛につく宇佐美。  早速、宇佐美にサーブが放たれる。まるで試しているかのようだ。  落下点でしっかりとはじき返す宇佐美。リベロとしての責任をしっかり果たす。  ライトで構える砂村。  草地は迷いなくライトにトスを上げる。  スッと三本の首がブロックにつく。  ――今度はそうはいかない!  力強く打つよりもコースを狙うことに集中する。  すると首と首の間を縫うような真っ直ぐのラインが頭の中で弾ける。  ためらわずそのラインに沿ってスパイクを放つ。  後衛の三本はブロックに頼り切っているのか、慌てた様子でボールを追うも僅かに間に合わなかった。 【3―4】。  ガッツポーズをする砂村にメンバーが駆け寄る。コート外の辻と桂も声援を送る。彼はエースの役目をきっちり果たし、後衛に下がる。代わりに渋沢が前衛へ。 「うっし!」  気合十分な様子で渋沢は肩を回す。  砂村のジャンプサーブが六又に迫る。しかしレシーブされ、レフトからスパイクが放たれる。佐々木のブロックを簡単に躱し、ほぼノーブロックのスパイクが後衛に襲い掛かる。 「上がっ……たぁ!」  懸命にレシーブしたのはリベロの宇佐美。繋がったボールを草地が躊躇わずレフトへ。  渋沢が豪快なフォームでスパイクを放つ。  しかし三本の壁に阻まれ、ボールは鋭く自陣を切り裂く。 【3―5】。 「ああ! くそっったれ!」  激情を露わにする渋沢。メンバーが声をかけ、切り換えさせる。  すぐに六又のサーブだ。  しかしまたしても、渋沢のスパイクはブロックに阻まれる。 【3―6】。  険悪なムードが立ち込める。  先程の光景がメンバーの脳裏をよぎる。 「ターイムッ!」  躊躇わず辻はコールした。
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