対ロクマタオロチ

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「考えがあるの」  メンバーの息が整うのを待って、私は切り出す。 「渋沢くんは、タッチアウトを狙ってみて」 「タッチアウトだと?」  露骨に不機嫌な表情をする渋沢くんに周囲のメンバーがざわつく。  しかし構わず続ける。 「いい? 一球一球丁寧に、いつもの試合と同――」 「いい加減にしろよ」  ついに渋沢くんが詰め寄ってきた。 「コートの外で監督気取りか?」 「渋沢!」慌てた様子で砂村くん。「彼女を責めたって仕方ないだろう?」 「まあ、いっか。どうせ夢だもんな」  血の気がスッと引くのを感じる。 「負けたって、死にはしねえよ」  ガタガタと震えだす桂くんを薬丸くんが慰める。  みんなにも伝染するのがわかる。  負けたら死亡――でも夢なら、ただの悪夢なら……。  十字架の死体。  あれは――本当に夢? ほんとうに? 「夢でも、さ」いつの間にか口が開いていた。「勝ちたいじゃん」  私の言葉にちえりや知子、ほむらが賛同してくれる。 「ちぇ」  相変わらずの渋沢くんだけど、もう迷ってはいられない。  残り時間は一分を切っている。  手短に作戦について話す。  センターブロックは常にクイックを想定し飛ぶ。  改めて薬丸くん、桂くんが頷く。  コース打ちが得意な砂村くんは引き続き、渋沢くんはあえて相手にぶつけてタッチアウトを狙う。  あと――これは。というか、普段なら間違いなく反則級のこと。  それについて説明すると、みんな頷いてくれた。 「いいじゃん。狙ってみるよ」  エース砂村くんが頷いた。渋沢くんは背中で聞いてくれていることを祈る。 「もんな」  その時、タイム終了を告げるホイッスルが鳴った。
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