対ロクマタオロチ

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 六又のサーブ。汚名返上とばかり佐々木がレシーブ。  草地がトス。 「ライトォ!」  渋沢がスパイク。力一杯打ったボールは運よくブロックの隙間を縫う。  後衛の一本、その鼻辺りに当たる。  傾ぐ身体。  奈落へ飛んでいくボール。 【9―8】。マッチポイント。  陣形チェンジ。後衛へ渋沢。前衛に砂村。 「頼んだぜ、エース」 「よせよ」  タッチを交わす両者。 「監督ぅ! だ!」  渋沢の声に辻は大きくガッツポーズ。他のメンバーも呼吸を整える。  先程までと違い、軽くジャンプしながらの渋沢のサーブ。  勢いに任せたボールは真っ直ぐ前衛の頭に当たる。  はじき返されたボールは自陣へ。  難なく処理し、エース砂村へ高々と。  ――悪く思うなよ!  コースを狙い、スパイク。  真っ直ぐ、六又の身体へ。  ぶつかる。はじき返されるボール。自陣へ。  再び処理し、草地はライトへ。センターから回り込んだ桂がスパイクを打ち込む。  身体へ当たる。再び弾かれ、自陣へ。  放ち、弾かれ、放ち、弾かれ――。  徐々に六又の身体が傾いていく。 『あいつ、倒しちゃおう?』  これこそ辻が提案した最終手段。  六本の首に――コート中央で鎮座する身体を倒す。  動かない的なら、練習を積んだメンバーなら可能と辻は踏んだ。  これはバレーボールの形をとった死闘だ。  勝つための手段を選んでいる場合ではないのだ。 「いけええ!」  強打の雨。  降りしきる思いを乗せたバレーボール。  放つ、針の穴を通す、澄んだ一撃。  放て。  放て。  放て。 『生きて帰りたい』――違う。 「いけええええぇぇっ!」 『試合に勝ちたい』――ただ、それだけだ。  大きく傾き、倒れるロクマタノオロチ。六本の首はのたうち回る。奈落に突き出た首に重心が寄っていき、 「グオオオオォォォォ」  耐えきれず、ついに身体もろとも奈落へと落ちていった。 【10―8】。  試合終了のホイッスルが鳴り響く。
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