クリスマスの後継者

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「はい、お待ちどうさま。」 話題を変えるように克己が陽気な調子でサンタにラーメンを出した。注文なんて受けていないと信二は思ったが、良く考えたらこの店にラーメン以外のメニューなどなかった。 「やっぱり、一年に一回の大仕事を終えてここで食べるラーメンが最高だよな。」 サンタは出されたラーメンを前にして嬉しそうに割りばしを割った。 「先代の時からだから、もう50年近くになりますね。」 しみじみと克己がサンタに話しかけた。 「そうだよ。まあ私もそろそろ歳だから引退したいんだけどね。なかなか、後継者がいなくてね。」 「まあ、大変な仕事ですからね。後継者探しも大変でしょうね。」 「大変は大変だけどさ、こんなやりがいのある仕事もないよ。世界中の子供たちの夢を叶える仕事だからね。」 サンタと克己、歳を重ねた仕事人同士の会話が展開されていく。 「どこかに、気骨のある若者がいればいいんだけどね。」 「そうですね。」 歳をとった大人たちの会話は何かといえば暗くなっていけないと信二は思った。 「ところで、信二君。」 サンタが突如信二の名を呼んだ。 「え?僕ですか?」 いきなり呼ばれた信二は間の抜けた声を出す。 「そうだよ。君しかいないじゃないか信二君は。ところで、信二君。君は何かこれ以外に仕事をやっているのかい?」 「え?あ、いや、今はこれだけです。別に特に何かやりたい事も無いし。」 改めて名前を呼ばれた割には、他愛もない話だったので信二は何の気なしに答えた。  しかし、1秒、2秒…だんだんこの質問の真意が信二にも理解できて来た。 「え?僕が後継者ですか?」 「どうだい、サンタに興味はないか?」 「いや~、いきなりそんな事言われても…。考えた事もないですし。」 いくらやりたい事がないと言っても、サンタになるなんてあまりにも唐突すぎる展開である。 「どんな仕事なんですか?」 提案を検討するにはまずその内容を良く知らなければいけない。
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