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12/25、クリスマスの夜が明け、26日の朝がやって来た。とは言っても、屋台のラーメン屋の営業にクリスマスは何の関係もない。カップルがデートでくるような店ではとてもないし、店に来る客の大半である飲み終わりのサラリーマンや早朝の仕事に出る職人たちにとってクリスマスはただの平日である。どちらかと言えば、間近に迫った正月の方が彼らの関心により近いところにある。
「お前もそろそろ来年はどうするか考えろよ。」
一人でラーメンを食べていた客が帰り、信二がその器を片付けていると、父の克己が声をかけた。
「まあ、そのうちな。」
いつものように、信二はそんな間の抜けた返事をする。
「そのうち、そのうちってな。大学まで出してやったのにろくに就職もしないで。まあ一年くらいはと思って、今年は俺の屋台の手伝いさせてたけど、こんな事長く続けてもらっちゃ困るんだよ。なんでもいいからよ。なんかやりたい事を見つけろよ。」
克己がため息をついた。信二もため息をついた。父親の自分に対する心配は分からないでもないが、分からないでもないだけに、一層鬱陶しく聞こえるのだった。
「分かってるよ。うるせえな。何か見つけるし、もし何も見つからなかったら、この店でも継いでやるから安心しな。」
信二は、とりあえずそう返した。だが、この発言は克己の癪に触れたようだった。
「この店とはなんだ。ラーメン屋台ってのは簡単な仕事じゃねえんだよ。、お前ごときにこの仕事が務まるわけないだろ。」
「悪かった。悪かった。冗談だよ。」
信二は冗談の通じない父親にうんざりした。
「それにな。この店を継ぐことは絶対にダメだ。」
克己は突然話を仕切り直すように、腕組みをし、背筋を伸ばした。
「なんでだよ。」
器を片付けていた信二が顔をあげた。
「それはな、屋台は金にならないからだ。」
克己はそう言い切った。
「何だよ。金かよ。」
改めて聞いて損したと言わんばかりに信二は再び片付けに戻る。
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