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先代と言えば、克己の父親、信二の祖父にあたるのだが、その祖父が屋台を始めたのは50年以上前の話である。そんな古くからの客がいる事は、信二は全く知らなかった。
「へ~。知らなかった。変わった客がいるもんだなあ。」
信二がそう感心していると、克己の表情が一層険しくなった。
「来たぞ。」
克己は言った。信二にはまだ屋台の周りに人の気配は感じられなかった。
だが、徐々にこちらに向かってくる人の足音が聞こえるようになってきた。50年来の客ともなれば、相当に歳のいっている客だと信二は思ったが、その足音はゆっくりではあるもののかなりしっかりしていた。
その足音の持ち主が屋台の前で止まる。そして、その人物はゆっくりとのれんをあげた。
「へい。いらっしゃい。お待ちしておりましたよ。」
克己は満面の笑顔になると、その人物を出迎えた。だが、信二はその人物の姿を見て、声を出す事ができなかった。
「今年も、ご苦労様でございます。」
屋台に腰を下ろしたその人に克己は水の入ったコップを差し出した。
「まあ、今年もいつも通りだったよ。ちょっと偏西風が強くて焦ったけどね。もう何年もやっている事だから慣れているよ。」
そう答えたその人物は恰幅の良い体に、赤い服と赤い帽子、そして口元に蓄えた白い髭の外国人の老人だった。
「流石はサンタさんだ。」
慣れた様子で、克己はその人物との会話をしていた。
「サンタさん!?」
目の前に現れたサンタを前に、信二は素っ頓狂な声を出した。
その声に気付いたサンタと克己が信二の方を見た。
「ああ、これは失礼しましたサンタさん。これは私の息子でして信二と言います。大学でたのに働きもしないもんだから、今年から屋台を手伝わせているんです。」
克己はサンタに息子を紹介した。
「ああ、君が信二君か。はじめまして。サンタクロースです。」
サンタは信二に微笑んだ。
「サンタって何?本物?な訳ないよな。」
「馬鹿野郎。お客さんに向かってなんて口の利き方するんだ。」
克己が怒鳴った。
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