#50 父として

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 そのことで、色恋に疎い私が創さんのことを好きだと思い込み、それを自分のせいだと思い込んでしまった創さんは、私が恭平兄ちゃんのことを好きな気持ちに気づけるように、私のことを実家である『パティスリー藤倉』に返すことにしたんだ。  心根の優しい創さんのことだから、おそらく、咲姫さんの身代わりにしようとした自分のことを責めてもいたのだろう。  そうしてそのことを父親から聞かされた私が幻滅するとでも思ったのかもしれない。 ――何勘違いしちゃってるの? バカバカバカッ! 訊いてくれればよかったのに!  心の中で創さんに盛大な悪態をつきながらも、いままで様子のおかしかった創さんの言動の数々が次々に蘇ってきて。  ――どうしてあの時、気づいてあげられなかったんだろう?  いつもいつもあんなに傍に居たのに。大好きな人のことなのに。  否、好きな人のことだからこそ、分からなくなったり、怖くて訊けないこともある。  だって、好きな人と一緒に居たら、緊張したり、舞い上がったりして、いつもいつも冷静でなんていられない。  そうだった私と同じように、創さんだって、そうだったから、こんなことになってるに違いない。  それだけ私のことを想ってくれていたということなんだろう。 ――【どんなことがあっても創のことを信じてあげて欲しいの】  ちょうどそこへ不意に愛理さんに言われた言葉が浮かんできた。  おそらく、愛梨さんはそのことに気づいてたんだ。  ここにきて、愛梨さんの言葉にふたたび後押ししてもらうこととなった。  そこへまたまたご当主の声が割り込んできて。 「こんなこというと、親馬鹿だって思われるかもしれないし、身勝手な親だって思われるかもしれないけど。 創は小さい頃から嘘のつけない不器用なところがある心根の優しい子でね。菜々子ちゃんへの気持ちは嘘じゃないってことだけは信じてやって欲しい。 それから、菜々子ちゃんが幸せになれるよう心から願っているとも言って――」  このままだと、どこまでもどこまでも続いてしまいそうなご当主の話を黙って聞いていられなくなった私は、大きな声を放って、話の腰をぶった切っていた。 「ちょっと待ってくださいッ! 全部誤解ですッ! 確かに、私は恭平兄ちゃんのことは好きですけど。それは、本当のお兄ちゃんみたいに好きって意味です。ただそれだけです。私が好きになったのは後にも先にもただひとり、創さんだけです」  まさか、さっきまで泣いてた私がそんなことを言うとは思ってもいなかったのだろう。  ご当主を始め、道隆さん、伯母夫婦、恭平兄ちゃんもただただ呆然として、私のことを穴があくんじゃないかってくらい凝視したままでいる。
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