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『人生リセットしてやり直したい』
人間生きていれば、一度くらいはそう思うことがあるんじゃないだろうか。
たとえば、大きな失敗をしてしまったとき、悪いことが立て続けに起こったときなどに。
でもそれは、あくまでも死ぬつもりがないから思うことだ。
私だって、自分がもうすぐ死ぬと分かっていれば、そんなこと絶対思わなかった。
昨日クビになって、社員寮からも今月中に出るよう言われ、途方に暮れて、ほんの一瞬、ほんの一瞬だけ、『人生リセットしたい』とは思ったけれど本気で死ぬつもりなんてなかったのだ。
それが、ハローワークへと向かう道すがら、交差点で信号待ちしている私の目の前に、どういう訳か降って湧いたように儚げな女性の姿が突如現れて、何故か、ふと、子供の頃母と行った縁日でもらったミドリガメのことを思い出していた。
ひどく懐かしかったせいか、思い出に引き込まれていた私の身体は、我に返った時には既に無意識に動いていて、そして驚くほど速い身のこなしで女性を抱きとめた私の眼前には、大きなトラックが迫っている。
あたかもスローモーションのような、走馬灯のような、ゆっくりと流れゆく景色の中。
ーー私、このまま死んじゃうの?
今まさに危険が迫っているというのに、案外冷静に、そんなことを思っていた。
その瞬間、キキキキキキーッ!! というけたたましいブレーキ音と、ドンッ!! という鈍い音と共に何かが身体にぶつかってきた強い衝撃が全身を駆け巡った。
どうやら私の二十ニ年という短い生涯はたった今終わりを迎えようとしているらしい。
死に際になって……
いくら失業したからって、『人生リセットしたい』なんて思うんじゃなかった。
死ぬんだったら、結婚くらいしておきたかったなぁ。
……といっても、彼氏の一人もできた試しなんてなかったけれど。
あれこれ後悔したってもう遅い。後の祭りだ。
今際の際、後悔しまくりだった私の意識はそこでプツリとブラックアウトしてしまっていた。
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