#14 事実は小説より奇であるらしい

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 桜小路さんの継母であるらしい女性は、私が専属のパティシエールだと名乗ると、訝しげな表情で上から下まで舐めるようにじっくりと観察してから。 「あら、そうだったの。スイーツが好きだとは聞いていたけど、そこまでとは思わなかったわ。でも、まぁ、そんな様子だとお付き合いされてる女性もいなさそうねぇ」  コックコート姿の私に納得したのか、感心したようにそう言うと、カメ吉の水槽を眺めながら。 「こんな亀なんか大事にして、どこがいいのかしらねぇ。気持ち悪い」  両手で自分の腕を抱きしめるようにして肩を竦めて、 「別に変わったこともなさそうだし、そろそろお暇しようかしら」 誰に呟くでもなくそう零した。それから。 「創さんに、くれぐれもよろしく伝えといてちょうだいね」  それだけ言い残すと、そそくさと帰っていったのだった。  滞在時間は、ざっと見積もっても、十分もなかったんじゃないだろうか。 ――一体何をしに来たんだろう?  そう首を傾げるしかなかったが、それは、継母が現れたとき同様、お母様が丁寧に教えてくださった。  お母様曰く、なんでも桜小路さんが一人暮らしするようになってからというもの、必ず週に一度予告なくふらりと現れて、変わったことがないかの確認にきているのだという。  特に近頃は、縁談話があってもいつも仕事が忙しいといって取り合わない桜小路さんに、女性の気配がないかを探りにきているらしく、それを桜小路さんは毎回毎回非常に嫌がっているらしい。
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