#14 事実は小説より奇であるらしい

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【ほら、よくいうでしょ? 九死に一生を得た人が、死んだ人の魂と話ができるようになったとか、その姿が視えるようになったとか】  確かに、そういう話を耳にしたことはあるけど。 ――今確か、事故で死ぬのを助けたって言ったよね?  でも菱沼さんの話だと、カメ吉を助けたのは私のはずなんだけど……。 ――どういうこと?  お母様の言葉には吃驚させられたけど、どうにも合点がいかなくて、そこんところをはっきりさせておこうと声を放ったものの、見かけはカメ吉なだけに、『お母様』と呼んでいいものか躊躇いがちに伺ってみる。 「あのう、お母様……とお呼びすればいいんですかね?」 【あら、いけない。そういえば自己紹介がまだだったわね。私は、桜小路愛梨(あいり)……と言いたいところだけど、もうこの世には存在しないから、ただの愛梨って呼んでくださって結構よ】  当のお母様は、特に気にすることもなく、ごくごく普通に当たり前のように、自己紹介をしてくださった。  若干ズレてた気もするけど、カメ吉に転生したお母様と話してることに比べたら、大したことじゃない。  その間も、水槽の池の中の立派な青石の上で、ミドリガメのカメ吉として甲羅干中なのだけれど。  なんとも不思議な心持ちでカメ吉を眺めつつ、お母様改め愛梨さんに向けて、私は今度こそ核心に迫ることにした。
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