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「できたー」
試合が終了してから数分後、ゆいなは気の抜けた声をあげた。
全てのマスを埋めきったスコアシートを、腕を前に目一杯伸ばして眺める。
「なんて美しいスコアなんでしょう…!うん、今回もそれっぽい!」
「おぉ!見せてください!」
全ての欄が埋まったスコアシートを、まきも腕を前に目一杯伸ばして眺める。
黒、赤、青、緑のコントラストに、謎の記号と数字が書かれたシートを見るとなぜだか充実感があるように思える。まきが書いたわけではないのに。
「読めないけど、なんとなくわかります。そしてここ!ゆいなさんがトイレ行ってる時のスコア!私が教えたスコア!写真撮っても良いですか?」
なぜか私が書いたスコアを見て盛り上がってるまきだが、今日は楽しんでもらえたようだ。
「それっぽく見えるでしょ?」
「プロっぽく見えます!」
華があるとはいえないが、スタープレイヤーの卵が試合をしているかもしれない二軍の試合を楽しめるということは、まきの野球知識向上に一役買えたのかもしれない。
野球に連れていってくださいと言った高揚したテンションから、二軍球場の静かな雰囲気にまきも一時期おとなしくなったが、結果的に試合後にはいつもの楽しげなまきに戻っていた。
試合終わりの選手が近くを通りきゃっきゃしているまきと帰りもまた同じ土手を上がっていく。今度は滑らないように慎重な足取りのまきが質問を投げてくる。
「試合終わってから言うのもなんですけど、どうして二軍の試合なんですか?今日凄い楽しかったですが、一軍の試合も楽しいじゃないですかー」
「私も一軍の試合好きだよ。でもスコア書くことには適してないんだよね。スタンドからの距離感もそうだし、応援や周りの盛り上がりに気が逸れちゃって。それに最近では一球速報があるでしょ?一軍だと記録取らなくてもスマホ見るだけですぐスコアが追えちゃうんだよね。せっかくスコア書いても更に詳しいデータが苦労せず瞬時に見れるからね。私は今、この瞬間の野球をスコアに刻んでいるって感覚が好きなんだよね」
「なるほど、発展のしすぎも良くないということですね…」
「それにスコア書きながらの方が野球に集中できるのよ。無駄なこと考えないし、野球に真摯に向き合っている感じがして好きなんだ」
「でました!ゆいなさんのストイック!」
「あとスコアはずっと日記のように残るからさ。まきちゃんと来たこの日が思い出に形で残るでしょ?」
「ゆいなさん……!ロマンチックで好きです!」
何やら変な解釈をされた気もするが、誰かと行く野球と言うものも悪くないな。黙々とスコアを書くのも良し。誰かと喋りながらスコアも書くのも良しか。
ゆいなはスコアラー人生にバリエーションができた気持ちを乗せて、帰りのバスに乗り込んだ。
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