第三章 デビュー戦

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 金曜日の昼休み。朝のルーティンで入るコンビニで買ったサンドイッチを開けていると、田中茉希が内野を抜けそうなゴロを止めるかのように横っ飛びでやってきた。 「スコアラーゆいなさん!明日も出勤ですか?」  先週、戸田球場に連れて行ってからまきは私のことをスコアラーゆいなさんと呼んでくる。 「スコアラーは止めて。それに私は趣味でスコア書いているだけだから、本物のスコアラーに失礼でしょ」 「いやぁ、でもあの出来栄えを見てしまうと、プロのスコアラーといっても良いくらいですよー」  あれからまきは野球にはまっていて、仕事帰りの飲み会を断り、家で野球を見ているらしい。昨日スワローズ勝ちましたねと別部署であるゆいなにわざわざ声をかけてくることもあった。 「それでゆいなさんは明日も出勤ですか?野球場に」 「土日のどちらかは行く予定。あと、出勤って呼ばないで。仕事ではないから」 「行くなら土曜日が良いですね。日曜は私予定があるので」  当然のように一緒に行く方向性になっている。私は一人で行こうと思っていたのだが。 「……じゃあ明日一緒に野球観戦行く?」 「えーー!良いんですか!やった、ゆいなさんから野球場に誘ってもらえた!」  誘ったというより誘わされた感じがするが、前回まきと行って楽しかったのも事実だった。野球観戦のパレットに一色鮮やかな色が加わった気分だった。 「一軍と二軍の試合どっちが良い?」 「前回二軍でしたからね。一軍にしましょうか?」 「ちょっと待ってね。調べる」  愛用している野球速報アプリのカレンダーを開き日程を再確認する。 「今日からスワローズは甲子園だ。となると、土日も甲子園だからちょっと行けないかな。巨人は名古屋」 「そうですか、残念。ゆいなさんと甲子園行っても良いですが、急に明日だとホテルとか取るの大変ですものね」  甲子園に行こうと言ったらまきは行く気だったのか?聞いてみたくもなったがそれは心に閉まっておこう。 「二軍戦は浦和球場だから行けるかな」 「前回は武蔵浦和駅でしたよね。同じ場所ではないのですか?」 「駅は一緒ね。ロッテの二軍球場なんだけど、スワローズの二軍球場の戸田と結構近いのよ」 「ほう、なるほど。それなら乗り換えを間違えずに行けますね」 「……行く?」 「それは愚問ですね。行きます!」
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