第三章 デビュー戦

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 その後もまきのスコア添削タイムを設けながら試合は進んでいき7回表を迎えた。  まきはペンを片手に楽しそうに試合を見るゆいなをじっと見つめていた。  試合中スマホも触らず、終始真剣ながら笑顔にも見える表情で試合展開を追っている。  ゆいなさんは仕事をしている時も真剣だが、それとはまた違った、何か目の輝きが違う気がする。本当に野球とスコアが好きなんだろうな。  私だったら試合中にスマホ触るし。でもスコア書いてるとそんな余裕もないか。 「ナイス送球」  横のゆいなさんが呟く。  一塁ランナーがヒットで三塁まで行こうとしたが、ライトからの好返球でアウトになった。 「こういう時は二塁と三塁の間でT.O.って書いてね。タッチアウトのこと」 「わかりましたー。良いプレイだったので感想も添えておきます!」 「まあ、普通はスコアに言葉とか書かないけど、まきちゃんのスコアだからオリジナルで良いね。それにしてもマーティンみたいな肩だったなー」 「せっかくだったらまきオリジナルのスコアに仕上げます!……マーティン?」  よくわからない名前も出てきたが、感想と共にマーティンという名前も添えておこう……。  すると急にゆいなさんが本気モードの表情になった。 「スワローズ、シフトの交代をお知らせします。先程代打致しました太田がそのまま入りサード。代走致しました内山がそのまま入りレフト。ライトの荒木に代わって渡邉が入りセンター。センターの濱田がライトに回ります。一番サード太田。二番レフト内山。三番センター渡邉。五番ライト濱田。以上に代わります」  ゆいなさんの目が一段と輝いている気がする。  スコアボードがないので呪文にしか聞こえない私は、一旦ゆいなさんが書き終えるのを待つ。 「私スコアを書いているときにこの瞬間が一番集中できて、一番楽しいかもしれない……!」  目を合わせられないくらいのキラキラした瞳でペンを置いたゆいなさんがこちらを見てくる。 「えっと守備交代があったんですよね」 「そうそう。今回はそこまで大幅なシフト変更ではないから簡単だったけど」 「それにしてはペンが動きまくってましたけど……」 「代打と代走の記号はわかる?」 「カンニングしてわかりました。代打がH、代走がR」 「ピンチヒッターのHとピンチランナーのRね。前にいた選手名の下に代わった選手名を書いて、守備位置にHとかRを書くのね」 「だから私たちの持っているスコアシートには、選手の名前書くところが一打順につき三人分あるんですね」 「守備位置にHと書いた選手が守備に就くときには、その右に守備位置を書くと」 「これも三マスあるので三回まで守備変更できますね」 「それ以上あるとマス作らないとだけど、普通は三マスで足りるわね」 「選手の守備位置に897とあったらセンター、ライト、レフトの順で守備が代わったことになるんですね」 「そうそう。選手も知っているとこの選手があのポジションに入ることはないから聞き間違えたな。とかもわかってくるよ」 「それは遠い未来の話ですね……」
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