第一章 開幕戦

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 皆さんは野球観戦での楽しみといったら何ですか?  試合を見ながらビールを飲むこと?  大声で応援すること?  選手の写真を撮ること?    私は、スコアを付けることです!  武蔵浦和駅からバスで10分。  バスを降りてから小川に架かる小さな橋を渡り、土手を登り歩いて行くと見えてくる戸田球場。プロ野球の東京ヤクルトスワローズ二軍野球場である。  私はいつものように黒赤青緑の4色ボールペン、修正ペン、そしてスコアブックを持ちプロ野球の二軍試合であるイースタン・リーグ公式戦を観戦する。  座席は休日の晴天ともありほぼ埋まっている。  とはいえ席数数は多くないので、このバックネット裏の席にいるファンは100人程度だ。  席の間隔は広くないので、足の上にスコアブックを置く。一番後ろの座席で4色ボールペンを黒にして右手で持ち、次の一球を待つ。    試合は7回表、先攻ライオンズの選手がチャンスで打席が回ってきている。スコアシートのひし形から目を少し左に移す。  この打者は1打席目に6球粘ってレフトへのタイムリーヒットを放っている。  2打席目は8球投げさせてサードゴロ。  3打席目も8球投げさせてレフトフライ。    そして迎えた4打席目。2死1,2塁のチャンスでもこの打者はやはり球数を投げさせてくるだろうか。  しかも打球方向はここまで全て左方向。さあ、バッテリーの采配が見物だ。    キャッチャーがじわりと外角にミットを構える。ピッチャーが初球を投じると共に、私も軽く持っていたボールペンを強く持ち変える。    初球はここまでスイングしていないので、球が甘くならない限り見送るだろうと思っていた。  しかしこの球を待っていたかのように打者のバットが思い切り振られる。    改心の当たりと共に今日一度も飛ばしていないライト側に打球が伸びていく。  少数ながらも両軍のファンが混じったスタンドから歓声があがる。  ホームランにはならずとも、ツーベースヒットにはなるだろうと思われた打球をライトの選手がジャンプしてスーパーキャッチを魅せた。    今度は残念そうな声とファインプレイに歓喜する声が響く。周囲では今のプレイへの拍手と「凄かった」などの興奮した話し声が聞こえる。  私も応援しているチームの選手がファインプレイをしたので手を叩いて盛り上がりたいところなのだが、私にはやることがある。
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