第四章 乱打戦

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 夜十時。定時はとっくに過ぎてている青山グリーンソフト株式会社で、ゆいなは通らない試験項目をひたすら修正していた。  開発中である多機能ストップウォッチアプリの設定画面にある「アンケートはこちら」をタップするとなぜか強制終了してしまうらしい。  本来はシステム部のゆいなが協力会社にお願いして試験してもらう工程なのだが、結局ゆいなが試験をしている。  ノールックでバグのある強制終了ポイントまで進めることが出来るようになるほど、操作を手が覚えてしまった。  おそらくこのバグは協力会社に伝えた試験手順の解釈が違うのだと思っていたが、どうやら発生条件が複雑らしい。そのバグの切り分け作業をするために様々な条件で試験をしていたところ、こんな時間になってしまった。  PC画面の右下の時間に目を向ける。今頃一軍の試合は全て終わっているのだろう。今日の先発高橋投手の結果を見ようかと、ゆいなはスマホを手に取った。  その瞬間、牽制があったことをランナーに知らせる一塁コーチのような鋭い声が、後ろからゆいなを突き刺す。 「あれ!ゆいなさん!まだいたんですか!」  ゆいなの一つ年下の人事部が驚きながらも何か嬉しそうにこちらを見ている。 「あ、まきちゃん、お疲れ様。そっちも残業してるの?」 「はい。中途採用の面接準備をしてまして。帰ろうかと思ったのですが、ゆいなさんいるかなーと思って」  どうやらシステム部に用があった訳ではなく、ゆいなに用があったようだ。  二週間前に浦和球場へ一緒に行ったが、先週は仙台でのゲームだったのでスコアを書きに球場へは行かなかった。  それ以来、終業後たまに顔を出すようになったまきは、もらったお菓子や、今聞かなくても良い仕事の質問を手土産にシステム部へやってくるようになった。
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