第四章 乱打戦

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「何か用?私の仕事妨害しに来たんじゃないよね?守備妨害ならぬ仕事妨害」  冗談気味にゆいなが言う。 「守備妨害ってなんですか?」 「守備妨害っていうのは、その名の通りランナーが守備を妨害したという意味で、ペナルティがあるの。例えば、ランナーが間に合わないから守備選手の足にスライディングして捕れないようにしようとか。妨害したらそのランナーは無条件でアウトになるの」 「わー、危ないですね」 「そう、そういうことがないようにも守備妨害があるの。もちろん故意ではなくても守備に影響がある走りだったら守備妨害になるけど」 「他のランナーはどうなるんですか?」 「状況にもよるけど、元いた塁に戻させるのが普通かな。ちなみに守備妨害はスコアでIPと書きます。イリーガルプレーの略でね。妨害された守備位置を書いて、IP6とかって書くの」 「スコアの勉強と共に英語の勉強にもなりますねー。……と言うか私守備妨害しに来たんじゃありませんからー」 冗談はさておき、話を仕事中に話しかけてきた人事部の話に戻す。 「ごめんごめん、本当は何の用だったの?」 「今度中途採用で面接する人、ベイスターズファンみたいなんです。印象はどんな感じですか?野球好きに悪い人はいないということで採用にしてしまいましょうかー」  まきは入社時、ゆいなと同じシステム部に配属されていたのだが、学生時代パソコンを触ってこなかったまきにとっては、システムの構造を覚えるのはハードルが高かった。  ゆいなはまきに直接教える役目ではなかったのだが、上司よりも年齢の近い同性のゆいなによく質問をしてきていたので昔から話をする機会が多かった。  その時はゆいながまきを助けるという構図になっていて、プライベートの話をするほどまきには余裕がなかった。  この会社はまきを元々人事部に配属するか迷っていたらしく、システム部でマウンドに立つのもやっとだったまきを人事部に異動させた。  それからまきと話すことはなかったが、何かでゆいなの野球好きを嗅ぎ付け、システム部へふらっと遊びに来るようになっている。 「まきちゃんはまだ合否を決めるようなのは権限はないでしょ。それは上司の仕事」 「そうですけどー。まあそもそも私は面接に同席しないんですけどね」  それなら何の準備をこの時間までしていたんだと思ったが、話を進めてみる。 「今少し忙しいの。要件はそれだけ?」 「ごめんなさい、そうですよね。えっとー何を言いに来たんだっけな。あ、今週末、野球場へ行こ~♪です!」  試合開始の一時間程前に野球場へ行くと毎回流れている「野球場へ行こう」のワンフレーズを口ずさみながら、今週末の予定を決めに来たようだ。 「今週はどこだっけ、忙しくて日程確認してなかった」  そう言うとゆいなはバグのポイントまで進めるよりも素早く、ノールックでイースタンリーグの予定を確認する。 「ちょうどベイスターズ戦があるみたい」 「お、これは視察になりますね。経費で落ちるかなー」 「それは経費で落とさないでね。球場は、平塚か……」  予想と外れた球場名にトーンを落として話すと、変化球に食らいつく打者のように、まきは気になる言葉を拾ってくる。 「平塚球場。何か問題でもあるんですか?」 「問題はないんだけど行ったことない球場だなと思って」  今度は変化球が高めに浮いて絶好球になった打者のように、まきは目を輝かせてフルスイングしてくる。 「ゆいなさんの初めてに立ち会えるんですか!ぜひ行きましょう。方向音痴の私が場所を調べて案内します」  もうこうなったら一緒に平塚球場へ行くことに決定なのだろうな。  そして私がしっかりと場所を調べておこう。
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