第四章 乱打戦

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 試合開始と共に野球場の雰囲気とペンを持つ力が変わる。  まきは二軍の試合も見るようになり選手名を覚えてきたのか、こういうバッティングをしてほしいなど知識も増えてきたようだ。スコアもゆいなをカンニングすることもあるが、基本は書けている。  今日はナイターだがそれにしても暑い。まきはさっきからスマホで何か調べている。気温でも見ているのだろうか。  一回の裏、スワローズの先発投手がマウンドに上がる。 「私この選手を今一番応援してるんだ」 「わ、下から投げた!アンダースローってやつですか?」 「そうそう、私変則フォームの選手が好きでね。特にアンダースローは今プロ野球界でも絶滅危惧種なのよ。それに変則の投手って生き様を感じるんだよね。150kmの早い球は投げられないけど、タイミングをずらしたり、変化球の緩急を使ったりして打者を打ち取っていく。その試行錯誤が好きなんだよね」 「なんだが玄人な意見ですねー。私もお気に入りの選手を見つけようかな」  まきなら数か月後には、推しの選手タオルを買っているかもしれないと思いながらアンダースローを見ている視界に、さっきからチラつくものがある。 「こいつこの前、合コンでかわいいやつと連絡先交換したってずっと言ってうるせえんだよ」 「おい、その話言うなよ!それにそいつとはもう別れてるし」 「早すぎだろ。こういうやつどう思う?」 「私はもっと女性を大事にしてあげた方が良いと思いまーす」 「俺だって大事にするから、俺と付き合ってみない?」 「ナイスプレー!」 ゆいなの横から、いつもより声に感情の入った大きな声援が響く。 「取るだけではなく、送球の態勢も頭に入れてグローブ出してましたよね」  今日はいつもよりマニアックな感想がまきから聞かれる。 「確かにそうかもね……。送球も良かったし」 「そうですよね、機敏なプレーでした」  ランナーを背負った場面で次の一球に集中していると、前から大きな笑い声が響く。  バッターは上手くボールを捉えたがショートゴロでスリーアウトとなった。  ショートはセカンドにボールを送ったため、64 FOと記載する。FOはフォースアウトのことだ。
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